そろりそろりと忍び足。足音をたてずに目標の物へと近づく。


「ツナは一階だしリボーンは寝てるし」


先程のたうち回って自己嫌悪していたらツナの机の下に並べてあるアルバムを見つけたわけだが、これは見るしかないだろう。きちんと年代別に分けられたそれはホコリを被っていて何年も開かれてない事がわかった。わたし小さい頃のアルバムなんてないからちょっと羨ましいかも。


「まずは一番古いのからいきますか…!」
「琴玻ー、ちょっと来てー!」
「はっ、ハイ!今行きます!!」


物音を出さないように抜き取ろうとしたらいきなりツナに呼ばれたもんだからビビった。一瞬バレたかと思ってかなりどもってしまった。


「タイミング悪すぎ…」


いくら文句を言おうとも呼ばれてしまったからには行かなくちゃいけないわけで、アルバムを見るのを諦めて部屋を出る。きっと小さい頃のツナはかわいいんだろうなあ。今度見せてもらおう!もしくはリベンジして今日みたいにこっそり見るか!


「………行ったか」


急ぎ足で階段を下りるとツナにリビングへと案内された。そこには予想通り奈々ママがいて今までなりを潜めていた緊張が一気に襲ってきた。
ツナは適当に言っておくから話を合わせろって言ってたけどさあ、そんな芸当わたしにできるはずがないですよね!ボロしか出ないぞ。


「母さん、この子が琴玻」
「あら、あなたが琴玻ちゃん?はじめまして」


やっぱり奈々ママは綺麗でした。中学生の子を持つ母親でこんなに綺麗な人はそうそういないよね。


「は、はじめまして!」
「ツナに話は聞いたわ。辛かったでしょ?小さい頃に親御さんが亡くなって、それから親戚の家をタライ回しにされてただなんて!今いる家もいづらくてリボーン君を頼って逃げて来たんですってね」


なんてマシンガントーク。ノンブレスで言い切った奈々ママにある種の畏怖の念を抱いた。
元の世界での事はツナには言ってないからこれはツナの作り話なんだろうけど微妙に合ってるのが恐ろしい。これが超直感ってやつか…!
けどわたしは悲劇のヒロインじゃないよ!たしかにタライ回しにはされたけど別に今お世話になってるお父さんの友人の家から逃げようと思った事はない。だっておじさん優しいし。


「ウチに住んでもいいわよ、琴玻ちゃん」
「え…本当にいいんですか?!…あ!!でも、わたしお金とか持ってなくて…」


軽い気持ちでツナに居候したいと告げてしまったが、暮らす人間が一人増える負担というのはかなりのものだ。
それを考えると手持ちのお金は数千円しかなく、生活用品も何一つとして持っていないわたしは迷惑しかかけないと目に見えている。くそ、通帳があればまだよかったのに!………あってもこの世界で使えるのかは疑問だけど。


「そんな事気にしないで!ウチには部屋も余ってるし、お金にも多少の余裕はあるから大丈夫よ」
「…でも、その、すごくご迷惑を……!」


中学生だからバイトはできないし、戸籍があるかもわからないからかろうじてできる新聞配達もすることが出来ない。単純に考えて、収入がないのに支出だけあるものを家に置いても何もいいことはないのだ。そんな簡単なこと、何で忘れてたんだろう。


「琴玻……」
「…、………」


ここにきてものすごくテンションの下がったわたしを見てツナは少し訝しげな表情を見せた。自分から頼んだくせに何拒否ってんだ、って感じですよね。


「ふぅ……」
「!!」


ウジウジと俯いたままのわたしを見かねたのか、奈々ママは少し溜め息をついた。

わたしは大人のつく溜め息が苦手だ。溜め息の後には必ず嫌なことを言われるから。


「ご、ごめんなさい…」
「あら?どうして琴玻ちゃんが謝るの?」
「だって、迷惑かけて…」


奈々ママの顔が見れない。マンガを読んで奈々ママがすごく優しい人だとい言うのは理解しているが、やはりこういう場での大人にはいい印象がなかったのでどうも身構えてしまう。もしかしたら、なんて嫌な想像が広がる。ああ、なんて失礼なんだろう。
そうやって一層縮こまるわたしに優しい声がかけられた。


「迷惑だなんて思ってないわ。人として、困ってる子をほっとけないでしょ?」


初めて言われた言葉に目頭が熱くなった。


「決めたわ!琴玻ちゃんが何と言おうとウチで預かります」
「琴玻、母さんはこうと決めたら絶対自分の意志は曲げないから諦めた方がいいよ」
「これからは奈々ママって呼んでね」
「ほら、もう琴玻の親になった気でいる」


……自称親戚の人達とは大違いだと思った。あの人達が見ているのはお父さんとお母さん、そして祖父母の遺産だけ。だから血の繋がらない見ず知らずの人間にここまで親切にしてくれる人をわたしはおじさん以外に知らなかった。


「あらあらあら」
「ちょっ、琴玻!何で泣いてるんだよ!」
「…え?わたし泣いてる?」


頬に手をやると指先が濡れた。泣いてるのに気づかないって漫画か。今までバカにしててごめん、泣いてるのに気づかない事って本当にあるんだね。


「ああ、もう!泣くなよ!」


あぁ、泣いちゃった。夢の中でお父さんが泣いちゃ駄目だって言ってたのになぁ。でもこれは自分が逃げるための涙じゃないからいいかな?


「ツナ、奈々ママ……本当にありがとう!」


涙を拭いて笑ったら二人とも笑ってくれた。やっぱり二人は親子なんだなあって思った。だって笑い方が同じなんだもん。





同情するなら愛をくれ!(お金なんていらないから愛情を下さい)




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