◎ 奏多様 フリリク(シンジャ)
「あー飲んだ飲んだ!」
少し小声でそう呟くのはシンドバッド。
彼は今、王宮の廊下にいた。
いつものように彼は酒の飲みたさに負け、たくさんの仕事をほっぽって町に飲みに行ったのだ。
ジャーファルに見つかるとややこしいので、とびきり用心に王宮を抜け出した。
抜け出すのはたやすく、夜遅くまで飲みあかし、また用心に王宮に戻ってきた、今まさにそれである。
シンドバッドは自室の前につく。彼のお付きはちょうどいなかった。シンドバッドはそれをいいことにそろりと自室に入った。
「なっ…!」
そこには無惨にもバラバラに落ちた書類と、
「ジャーファルっ!?」
元々白い肌をさらに青白くさせ、倒れているジャーファルがいた。
If I had done as you advised me,もし君の言う通りにしていたら、 「過労、ですね」
厳しい顔をしてシンドバッドを見つめるヤムライハが、シンドバッドに告げる。
「……過労か」
「…はい。王よ、ジャーファルさんばかりに仕事を押し付けてはいませんでしたか?」
「っそんなことは、」
「ここ最近よく夜に王宮から抜け出していますよね。たくさんの仕事を残したまま」
「…」
「それ、ジャーファルさん気付いてたんですよ。なのに、何も言わずに仕事を片付けて。だからジャーファルさんは過労で倒れたんですよ。」
シンドバッドは目を見開いてベッドで眠るジャーファルを見つめた。
昨日、倒れているジャーファルをみつけて、すぐにヤムライハを呼んだ。
検査をして、結果を伝えるためにシンドバッドはヤムライハの部屋に呼ばれた。
(ジャーファル……)
薬を打ったので、すやすやと眠るジャーファル。
自分のためにこんなにも尽くしてくれ、仕事もこなしてくれる政務官なんて、ジャーファルの他にいるのだろうか。
「今日はジャーファルさんは休んだ方がいいでしょう。」
「…ああ」
「王よ。ちゃんと自分の仕事は自分でやってくださいね」
「…わかっている。すべてジャーファルに押し付けた俺が悪いことなんて」
「すまない、ジャーファル、」とシンドバッドはジャーファルに近づき頬をなでた。
ヤムライハは2人にすべきだと思い、部屋を後にした。
「ジャーファル、」
頬をなでるとぴくぴくと瞼が動く。
まだ寝ているらしいが、くすぐったそうにジャーファルは身をよじる。
「…こんなになるまでお前を働かせるなんて、、俺は最低だな…」
王宮を抜け出してはジャーファルが仕事をすませておいてくれた。もちろん怒られるが、自分はジャーファルの優しさに甘えていたんだと思う。
『シン、一人で王宮からでるなんて危ないじゃないですか!シンが抜け出すと私の仕事が増えるんですからね。まったく。』
(あのときの言葉を受け止めていたら、)
ジャーファルは過労でなんて倒れなくてよかったのではないか。
自分がなんでもジャーファルに押し付けるから、ジャーファルは倒れてしまったんだ。
シンドバッドはそんなことを考えなから、「ジャーファル、ごめんな、」とずって呟いていた。
「ん………」
深夜、ジャーファルはゆっくりと瞳を開いた。
ベッドが異様に広い。部屋の装飾も自分の部屋とは比べ物にならない。
どうやらシンドバッドの部屋にいるようだ。
(なんでシンの部屋に、)
ジャーファルは思い出した。昨日、またシンドバッドが王宮を抜け出し、シンドバッドの仕事を片付けていた自分を。
(あの時、仕事を片付けていたら突然、)
目眩がして、自分はそのまま……
「!!!!」
ジャーファルはガバッとベッドから飛び起きた。
「!ジャーファル、起きたのか?」
「!シン?」
声がしたので振り替えると、そこには大量の仕事を片付けているシンドバッドがいた。
「シン、何故私はシンの部屋に、」
「ああ、それはな、」
シンドバッドは椅子から立ち上がると、ジャーファルがいるベッドに近づき、ベッドに腰かけた。
「お前、倒れたんだよ」
「な、」
「過労、だそうだ」
「………」
シンドバッドは微笑んでいた。しかし、顔を少しうつむかせ、申し訳なさそうにもしていた。
「お前が過労なんかで倒れたのは全て俺の責任だ。」
「シン、」
「お前にこんなになるまで仕事をさせるなんて、最低だと、」
「シン!」
ジャーファルはシンドバッドの言葉を遮る。シンドバッドは驚いてジャーファルの方を見ると、ガバッと急に抱きつかれた。
「!!ジャー、」
「シンだけが悪くなんかありませんよ!そりゃあ仕事を残して酒を飲みに行くのは悪いですが!終業しているのに仕事をする私にも責任があります!」
「ジャーファル…」
「…だからそんか情けない顔しないでくださいよ…いつものように私に笑ってください…」
自分にすがるように抱きつくジャーファル。しかもいつもだったらありえないように、自分に甘えてくるではないか。
シンドバッドは理性を押さえつつ、ジャーファルの言うように、笑いかけた。
「ははは!お前が甘えるなんて珍しいもんだな!」
「なっ…!」
「だから王様、ジャーファルくんにキスしたくなったんだが」
「!!」
ずい、とジャーファルに顔を近づければ、ジャーファルはぼっと音が出そうなくらいに顔を真っ赤にさせた。
「ちょ、シン!」
「いいだろ?たまには。最近仕事が多くてこういうこともできていないじゃないか。」
「誰のせいだ!!」
ジャーファルはそういうと急に覚悟を決めたような顔になった。
「ジャーファ…!」
シンドバッドがそう呼ぼうとしたら、遮られた。ジャーファルの口で。
ジャーファルはシンドバッドに、触れるだけのキスをして、すぐに離す。
「え?え?ジャーファルくん?」
「っ、もう、ちゃんと仕事はこなしてくださいね!!」
シンドバッドは、そう顔を真っ赤にさせて言うジャーファルに、今度は自分から深い深いキスをしたのであった。
If I had done as you advised me,もし君の言う通りにしていたら、 (君は倒れなかっただろうな)
(しかし、)
(こんな可愛い君も見られなかったな)
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奏多様リクエストで、「シンの溜めた仕事を片付ける為、過労で倒れたジャーファル微シリアス→甘」でした!
リクエストにそっているかわかりませんが、精一杯頑張りました!
リクエストありがとうございました!
これからも青空と小鳥とをよろしくお願いしますー!
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