8.堕天使と鏡
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「ハァ…ハァ…」



夕暮れの中、息を切らしてある少女が村の中を走っていた。



「セナ!あの羽がゴーレムの中にあったってことは天使がゴーレムを産み出したんだよな!?」



バッグの中から少し顔を出してペルが言う。



「うん。多分私をおびき寄せるために」



ズザザザっとセナは止まる。



「この気配…」

「天使ね…」



セナは建物の間をすいすい進むと、夕日の綺麗な広い場所に出た。

そして目線の先には――



「お久しぶりね。セナ」

「リル――」



さっきの天使がいた。



「やっぱりてめぇらだったか!!ぺぺ!!」

「あー!!ペルだー!!」



セナはギロリとリルを睨み付ける。



「やだ。怖いわよ。その顔。」

「ゴーレムつくったのあんたよね?」

「知らないわよ?私は」

「とぼけないで!!」



セナがいきなり叫んだ。



「私は見たのよ!!ゴーレムの中からあんたの羽が出てくるとこを!!」



リルはフッと笑う。



「ええそうよ。私がゴーレムをつくった。でも天使の聖地の近くにくるあなたも悪いわよぬ?」



ブァァっとセナの周りに煙が立ち込める。そして煙が消えるとセナの様子が変わっていた。



「悪魔の姿になるのね」



髪の色は紫。頭には角があって尻尾もある。それに黒い羽もついていた。



「どんな天使でもセナの悪魔モードにかなうやつはいねぇ!!」



ふつう悪魔は天使には絶対にかなわない。
理由は天使の持つ"正義"の力には悪魔の持つ"悪"のがかきけされてしまうから。でもセナは、何故か"悪"の力がかきけされないのだ。



「確かに今のあなたは天使の最強の敵…でも」



リルは黒いブレスレットを見せた。



「っ!?あんたっ!?」

「そのブレスレットはっ!!」



リルは笑った。



「そう。このブレスレットは墮天使の証のブレスレット。だからもう私は天使じゃない。」


墮天使


墮天使とは天使が絶対におかしてはならない罪をおかしてしまうとなってしまういわば"悪の天使"。



「…じゃあなんで私をおびき寄せたりしたのっ!?墮天使なら私を殺したって―」

「違う違う」



リルはセナの目を見て言う。



「私はあなたに教えにきたのよ。」



セナはリルの目を見て



「…何を?」



と訪ねる。

リルは微笑むと、口を開いた。



「"魔の紅眼"の"狩る者"を教えにきたの」

「!!!?」



また不気味な風が吹き抜けた。





++++++++++





「散歩に行くぅ!?」



村の宿の居間で、ナツがグレイに言った。



「ああ。行っちゃわりぃかよ」

「いや、別に行ってもいいけどよ」



ナツはグレイを見て言う。


「セナ見つけたら連れ帰ってこいよ?」

「わかってる」



グレイはそう言うと、靴に履き替えて外へ出ていく。


「あれ?グレイどっか行ったの?」



トイレから帰ってきたルーシィが、ナツに言う。



「ああ。散歩だとよ」



ナツはごろんとその場に寝転がる。



「ふぅーん。で、セナは?」
「まだだ……」



ナツは「はぁ…」と大きなため息をつくと、こう呟いた。



「…腹減ったなー」






++++++++++






おかしい。

すべてにおいておかしい。
セナがあんなに険しい顔して走ってくなんて。

やっぱり俺の予感はあたっていたと思う。

昨日の目のこと、今日の羽と姿を消したこと。

やっぱり"あれ"にかけてみるしかない。

散歩に行くなんて言ったけど、散歩なんかじゃねえ。
俺はさっき行ったペネレ山に入っていく。

帰りぎわ走りながら見たあの"鏡"。

あれは絶対に

"強欲の鏡"だ――

俺はゴーレムがいた広い場所につくと、鏡が見えた場所に近づく。

でもそれは鏡ではなかった。

小さな羅針盤。

岩と岩に挟まってたんだ。


「ん?」



よく見ると、羅針盤には何か文字が記されていた。



「【強欲の鏡…強欲がある者の前に現れる…羅針盤を地面のくぼみにはめろ…すると強欲の鏡が現れるだろう】…?」



まじか!?

まじであんのかよ!?

強欲の鏡ってのはよ!!

俺は地面のくぼみを探す。
すると広い場所の真ん中にさっきはきずかなかったけど、羅針盤がちょうどはまるくらいのくぼみがあった。



「…よし!」



ガチャリ



羅針盤がはまると、元々暗かった洞窟内が、もっと暗く、何も見えないくらいになる。



「な、なんだっ!?何も見えね……」

「そう慌てるな。俺。」

「!?」



前から声がした。

すると、どこにあったかわからないろうそくが、何本も灯り初めて、真っ暗だった洞窟は少し明るくなる。


「……!」



そして俺の前には綺麗に装飾が施された鏡があった。そしてその中にはもう一人の俺が移っていた。



「……俺?」

「ああ。俺はお前さ。グレイ・フルバスターさ。」



セナが言うには鏡に写るのは"正反対の自分"。


「さ、お前の叶えたい"強欲"って?」

「…」



そうだった。

俺はこれが聞きたくて、

こんなとこまで来たんだ。


「セナは一体何者なんだ…?」



どことなくギルドでのペルのあの言葉が気になって。


【ああ、俺からも言う。"人間"のお前らは特に】



あの"人間"の意味が知りたくて。
気づけばセナは人間じゃないような気がして。


「…わかった。セナ・フォールドの事だな。」



もう一人の俺がそう言うと、鏡が光だした。



「うぉっ!?なんだっ!?」



ピカァっと辺りは光に包まれる。
やがて、光は消え始め、元のろうそくの光に戻る。



「なんだったんだ…?」

「教えよう。セナ・フォールドはね…」



俺は、唾をごくりと飲んだ。

ろうそくの火は、怪しげに燃え続けていた……



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