episode4 メールに緩む顔
『わかった』と短く書かれたメールを見て授業中にもかかわらず思わず吹き出してしまった。
「ぶはっ」
「こら!青峰!」
「すいやせーん」
クソ面白くない数学の授業しやがる教師に怒られて、いつもなら「うるせぇ!」とかいっちまうのにあまりにも緑間のメールが面白すぎて怒る気にもならなかった。
「どうしたの?青峰くん。にやにやしちゃって」
「お前にゃかんけーねーよ」
「なによそれー」
隣の席のさつきにやにやしてると言われた。俺、そんなに嬉しいのかな。なんて。
高尾と緑間が付き合っていたのは知ってる。そして俺は緑間のことが好きだ。まぁ知ってるのは黄瀬とテツくれぇだけど。
正直最初は緑間のことは苦手だった。陰険眼鏡だし、なのだよとか言うし。だけど、真っ直ぐで、誰に何を言われても動じなくて、自分をしっかりもってる、そんな緑間に徐々に引かれていったんだと思う。
思いなんて伝えられぬまま、中学を卒業し、お互い別々の高校に通った。
そしたら、いつの間にか緑間には恋人ができていた。名前は、高尾。
なんで俺が高尾のことを覚えているか。それは多分。緑間と同じくらい高尾のことを意識していたからだと思う。
好きとかそういう意味じゃなくて、「緑間の恋人」ってことで高尾のことはすっげー意識してた。嫉妬もしたし、恨みもしてた。緑間が選んだ奴だからしょうがねえ、なんて思ってたが、やっぱり心のどこかは高尾のことを意識していた。
「ねぇ青峰くん。さっき青峰くんが聞いてきた、『高尾』って人のことだけど」
「なんだよ。さっき知らねーっていってたじゃねぇか」
「知らないんだけどね、なんか青峰くんがそんなこと聞いてくるから彼女なのかなーなんて」
「ばっ、ちげぇよっ!!」
ガタッと思わず大きな声をあげて席を立った。さつきは驚いたように俺を見上げ、他のやつらも俺を驚いたように見ていて、
「……青峰ぇ…」
「げっ、」
「廊下に立っとけ!!!」
思い切り教師が投げた黒板消しが俺の顔面にクリーヒットし、思わず後ろにバタンッと倒れた。さいわい一番後ろの席だったので被害を受けたのは俺だけだが。
「いって…」
「さっき注意したばかりだろう!」
「だからって黒板消し投げるこたねぇだろ!!」
「それくらいしないと聞かないだろう!」
「うるせぇクソ教師!!」
「なんだと!?」
「ちょ、青峰くん!!」
「やめなって」といいながらさりげなくハンカチでチョークの粉まみれになった俺をふいてくれるさつき。相変わらず俺の幼馴染みは気が利くぜ。
「チッ」
「廊下に立っとけといったはずだ。頭冷やせ」
「…わーったよ」
俺はさつきに礼を言って廊下に出た。
パタン、と携帯を開く。そしてさっき届いた緑間のメールを見る。
「…ほんっと、そっけねぇよなぁ」
しん、と静まりきってる廊下でまたふっと笑った。
「…放課後が楽しみだな…」
窓から見える青い空を見上げながら、パタンと携帯を閉じた。