episode1 まるで最初から、
高校1年の夏、7月8日。
いつも高尾は頼んでもいないのにモーニングコールをかけてくる。だが珍しく今日はかかってこなかった。
登校する時も、いつもきまって俺の家の前でチャリアカーに乗って待っているのに、今日はいなかった。いくら待っても高尾が来る気配はなかったので仕方なく俺は朝練に向かった。
学校につき、体育館に行くと大坪先輩、宮地先輩、木村先輩がいた。でもなぜかそのなか高尾が休んだり怪我をした時にかわりに出る3年の本城先輩もいた。こんな朝早い時間に朝練をするのはレギュラーしかいないため、本城先輩がいるということは、高尾は休みなのだろう。まったく、連絡くらいするのだよ。
「おはようございます」
「お、緑間おはよう」
「あの、高尾は休みですか?」
俺がそう訪ねると、先輩達はポカンと口をあけた。
「は?高尾?誰だよ、それ」
「…は?」
「バスケ部に高尾ってやつはいなかったよな、なあキャプテン!」
「ああ。大丈夫か緑間。練習のしすぎで頭おかしくなったのか?」
「大坪言い過ぎだろ〜」
先輩達はゲラゲラと笑い、いつも通り喋り出す。
高尾ってやつはいない…?昨日まで一緒に練習していたのにか。なぜ先輩達はそんなふざけたことを言うのだよ。理解ができないのだよ。
「…ふ……ざけるな」
「は?」
「ふざけるな!昨日まで高尾と一緒に練習していただろう!?何がいないだ、知らないだ!高尾は秀徳高校バスケ部レギュラーだっただろう!」
「…おい、キャプテン、緑間本当に頭おかしくなったみたいだぜ、」
「そ、そうみたいだな。とりあえず落ち着けよ、緑間、」
「落ち着いていられるか!」
「緑間テメェ!なにキャプテンにむかって生意気なこといってんだよ!轢くぞ!」
「やめろって宮地、」
俺は先輩達にイラついて体育館を飛び出した。
高尾、高尾。どうして先輩達はわからないのだよ、あんなにも一緒にいたのに、忘れたと言うのか…?
まるで、最初から高尾がいなかったかのように。
結局朝練をサボり、クラスに行く。
俺の前の高尾の席には当たり前のように違う男子が座っていた。
「おい、」
「ん?お、よう、緑間」
「なぜお前がそこに座っているのだよ」
「は?緑間お前ひでぇな、俺の席だからに決まってんだろ?」
「…昨日まで高尾の席だったはずだが」
「高尾?誰だよ、そいつ。このクラスにはいねぇよ?」
「っ、…」
「お、おい、緑間っっ!?」
俺は、気づけば教室を飛び出していた。
学校でわかったこと、それはすべての人間が高尾の存在を忘れていること。先生も、バスケ部も、生徒も、みんな。
確認のために高尾の家に電話をかけて確認してみると、高尾の家には繋がらないし、帰りによってみると高尾の家があった所は跡形もなく空き地になっていた。
訳もわからず、ただ、高尾に会いたい、そう思っていた。
何となく家に帰りたくなくて、近くの公園のベンチに腰かけた。
なんで、高尾はいなくなってしまったのだろうか。
なんで、高尾は最初からいなかったかのようになっているのだろうか。
自分なりに考えたが、どうしてもわからなくて途方にくれていたら、いきなり頭上から声がした。
「よぅ、緑間」
「……青峰か」
「俺でわるかったな。つかなんでこんなとこにいるんだよ」
突然現れた長身の色黒男、青峰大輝は、そのまま俺の横にドカッと腰かける。
「…近くを通っただけなのだよ」
「ふーん」
「なぜお前はここにいるのだ?」
「んー、ここの公園の近くに本屋あるだろ?マイちゃんの写真集買った帰りよった。というか、珍しいな。お前が高尾と一緒じゃないなんて」
青峰の手元をよく見てみると通学カバンと一緒に本屋の袋があった。
「まったく、あきれたのだ…よ…!?」
「?なんだよ」
「お前っ、今なんてっ!?」
「ああ?高尾と一緒じゃないなんて?」
「青峰、お前、高尾のことを覚えているのか!?」
「覚えてるもなにも、秀徳のレギュラーだろ?知ってるよ」
俺は本当に訳もわからず、思わずハア、と深いため息をついた。
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