episode6 痛む心、滲む涙。
広い広いホテルのスウィートルームに、高尾はいた。
高層ホテルの最上階の部屋からの眺めは最高だ。だがそこからの眺めはとても現在の日本の眺めではなかった。
中に浮かんだ車。建物も何もかも、信じられないほどに進歩していた。
そう、ここは2050年、未来なのだ。
高尾は広い部屋に一人ポツンといた。
別に何をするわけでもなく、ぼーっと。
するとコンコンと音が鳴り、ガチャっと誰かが室内に入ってくる。
「高尾、仕事だ」
「………うぃっす」
見知らぬ男がそう言うと、高尾はすくりと立ち上がり、男の後をついていく。
この世界にはエレベーターと言うものがどうやらないらしく、丸く光る、ゲームなどで出てくる「ワープポイント」なるものがあった。
男と高尾はワープポイントに乗ると、男が地下2階と呟く。するとブゥンと音を立てて二人の姿は消える。
ブゥンと再び音が鳴り、二人の姿が現れる。
目の前には凄まじい数のパソコンやモニターが置かれていて、そのまん中には人が一人座り、カタカタと音を立てていた。
「ボス、つれてきました」
「そうか。じゃあお前は戻っていいぞ」
「はい」
ボスと呼ばれた男がそう言うと、高尾を連れてきた男はワープポイントに乗り消えていく。
高尾はボスの姿をみると、少し顔をしかめて笑う。
「仕事…ですか?」
「ああ、だがその前にこれまでの状況を伝える」
「…はい」
ボスはカタカタとキーボードを鳴らせ、無数のモニターに映像を写し出す。
そこは2013年、現代の日本だった。
「お前が消えたことは世界にダメージを加えた」
「……」
「とくに「俺」にな」
映像が切り替わり、画面に写し出されたのは緑間だった。
「っ、」
「だがお陰でいい研究ができているのだよ。ありがとうな、高尾」
「…自分で自分を研究して、楽しいんですか……… 真ちゃん」
真ちゃんと呼ばれた瞬間、ボスはキーボードをとめ、くるりと高尾と向き合う。
そこにはかなり年をとった、緑間がいた。
「楽しいのだよ。俺からはいい研究資料がてに入る」
「でもあまりやりすぎたら!」
「真ちゃんの存在も消えてしまう!だろ?」
「っ、」
「別に構わない。そうなったとしても本望なのだよ」
「俺は構わなくない!俺は、俺は!」
「そんなことより仕事だ高尾」
緑間はまたくるりと向きを変えると、カタカタといわせる。
緑間が仕事を言っている最中、高尾はボロボロと涙を流していた。
早く、「元」の真ちゃんに会いたい。