クロッカス




「名前様、朝食ができました…よ……」


いつものように紡ぎだした言葉を、ゼラニウムは思い出したように引っ込めた。

ゼラニウムは名前の従者。10年前に滅びたムーンライト王国の唯一の生き残りの一人だ。

カタン、と静まり返った家の中に、椅子に座る音だけが響いた。


ーーそうだ、名前様はもういないんだ


そう思うとハァ、とため息が出る。

名前が旅だったのはつい一週間前の事だ。
今まで10年間一緒に住んでいたわけだから、娘のように可愛がっていたし、そりゃあもう旅立つのは寂しい。
でも、彼女の旅立つ目的は、今は無き、母国ムーンライト王国の為だ。止めることなんてできない。

従者の自分も行く、そういったのだが、もう歳も歳だし一人で行ける、そう言われた。
確かに名前は強い。10年間ずっと鍛えてきたのだから。そして、彼女は国で唯一取得できたあの魔法をもっている。



「………」



どうか、ご無事で。
私はずっと待っています。


そう心で唱えると、何だか心が軽くなった気がした。





クロッカス 〜あなたを待っています〜





番外編なのに、夢主の従者の話とか、マニアックですみませんっ




お題をお借りしました 秋桜-コスモス-


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