いつものようにいつもの病室へ足を動かす。

小さい頃から病弱だった俺の幼馴染みであり恋人でもある名前は、数日前に家で倒れて、入院中であった。

ガラリと扉を開けると、そこには悲しそうに外を眺める名前がいた。
いつもは笑ってるのに、どうしたのだろうか。



「!」

「大丈夫か?」



俺に少し驚いた名前だが、すぐにへら、といつもの笑みを浮かべた。



「真ちゃん、来てくれてありがとう」

「当たり前なのだよ。それより、病状は?またすぐ退院なのだろう?」



何気なく、本当に何気なくそう聞くと、名前は「…」と言葉をつまらせた。

一瞬、俺の頭のなかに不安が生まれた。
なにか悪い予感がしたんだ。



「……」

「…どうかしたのか」

「…真ちゃんには、伝えておくね、」



名前はそういうと、俺の右手をぎゅっと握った。
そして、深呼吸をして俺の顔を見た。



「…私、あと一ヶ月生きられるかわからないんだって」

「な、」

「本当はね、真ちゃんには言わないでおこうと思ったの。どうしても真ちゃんと別れたくなくて。でもいいよ、あと一ヶ月で死ぬ彼女なんていらないもんね」



「だから真ちゃん、別れよう?」と名前は言った。

名前が長くない命だとは知っていた。だが、そんなにもはやく、いってしまうなんて。



「…それは、嫌なのだよ」

「どうして?」

「俺はお前が生きていようがいまいが、俺はお前を・・・愛しているのだよ」

「!」



名前を死ぬからいらないなんて思ったことはない。ましては、こんな俺でいいのかと言いたいくらいだ。
というか、名前がもう死ぬ、だなんて、分かってはいても、とても辛いことで。
俺は掴まれていた手を名前の背中へとまわして、ぎゅっと抱きしめた。
ぴくりとはねた体。だけどすぐに抱き返してくれて。



「・・・真ちゃん、ありがとう・・・私も、愛してるよ・・・」

「・・・ああ」



名前はぎゅっと力を込めた。すすり泣く声が聞こえて。



「・・・ねぇ、真ちゃん、」

「・・・なんだ」

「私ね、初めて時間が止まればいいなって思ったよ」

「・・・なぜだ・・・?」

「・・・だって、真ちゃんと、ずっと一緒にいられるじゃん」




そんなの俺だって同じだ、と告げながら、名前に口づけた。




時よ止まれと心から


(できればずっと、)
(一緒にいたかった)





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