口説き文句はペテン | ナノ











ソファに腰を沈めて、TVの画面を見る。
一昔前に流行った純粋な恋愛映画。



「…のう、柳生。柳生はこんなのが好きじゃったか?」



俺の隣に座ってこのDVDを借りてきた張本人に声をかける。



「これといって好きではありませんが、嫌いでもありませんね。興味深いといった感情でしょうか。」



「ふーん…」とだけ返して、視線をまた画面に向けた。途中で少し寝てしまったから、よう分からんけど、どうも恋人同士の2人の逃亡劇らしい。…ああ、こういうの恋愛映画では駆け落ちとでも言うんじゃったかのう?

身分が違くて、住んでいる環境も違くて、両親にも反対されていて、なぜか命までも狙われている2人が。結ばれると言うハッピーエンドを求めて。

ありきたりな展開に、再び睡魔が俺を襲う。



「………ふぁ」



と小さくあくびをして、ちらり、横目で柳生を見る。



(おーおー、真剣に見とるのう)



眼鏡にキラキラ反射して、面白い。
なんだか柳生が真剣に見とるから、俺ももう少し見てみようかの。と思った矢先に。

画面に映る男が、恋人の女に囁いた。



「たとえ死んでも君を守る」



―――たとえ死んでも



この言葉だけが頭の中を埋め尽くす。



「………柳生。」

「なんでしょう、仁王くん」



柳生も同じ気持ちだったらしく、2人して顔を見合わせた。



「とんだペテンですね」
「とんだペテンじゃの」



ほぼ同時に言い放った2人の言葉は、TVのノイズだけが響く空間にこだまして溶けていった。

くつり、視線を再び画面に戻して、笑みを零す。



(はっ…、馬鹿馬鹿しい口説き文句もあったもんじゃの)



―――たとえ死んでも君を守る、










死んでしまった後は誰が君を守るんじゃ?





***

柳生と仁王は少し大人びた考えをしてると思います。
なんたって道化師とその恋人だからね!


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