時間が余ったからまた書類見て、結構進んだ所で漸く他の受験者が来たらしい。集まってくださいなんて声が聞こえる。だが断るって言いたくなった。
人数はだいぶ減ったものの、変わらず犇めいている。足もおっそいし、群れるじゃなくて犇めくの方が字面がいい気がする。

仕方ないから声と姿が見える所まで近づいてあげた。なんか僕のこと探してるみたいだし。

「第二試験は、第一試験の通過順に行います」
あ、そっか。僕が一位だからね、僕がいないと始められなかったんだ。

「これから一人ずつ、私からヒントを聞いてから目の前の洋館に入っていただきます。勿論、ヒントはそれぞれ異なりますし、順位の高い方の方が重要なヒントを得られる可能性が高いです。洋館の中及び周囲には罠や仕掛け、特別試験官として皆さんに襲いかかる獄囚などがいます。他の受験者と協力するか、はたまた交渉や力ずくでヒントを聞き出すか、方法は問いません、30時間内にここ以外の出口を見つけ出してください」

ふーん。面倒くさいなぁ。念はなるべく使わない方向で行こうとか思ってたけど、別にいいや。群れるよりマシ。

「では一着の方、此方へ」

僕が動いたら、なんか一斉にこっち向いた。ムサイからやめてよ。顔色悪い奴もいれば、何でコイツがみたいな舐め腐った顔の奴もいる。よし、顔は覚えた。中で遇ったら咬み殺そう。ここで咬み殺して万が一失格とか言われたらアレだし。

「それではヒントです。…『北北東、西南西、供物を捧げよ』以上です。それではどうぞ、行ってらっしゃいませ」

うん、意味不明。絶対これ、一人じゃ解んないでしょ。
じゃ、行きますか。
無駄に重たい扉を開ける。バタンと仰々しい音を立てて、扉は閉まった。


◆◆◆

『金と赤、銀に青』
『上の階に手掛かりがある』
『隠された秘密の通路が存在する』
『展示されている物の中には値打ち物がある』
……
『したじつんもののうのえいにろ』
『一つ前は箱』
『ちにみちるはち』
『絵画には仕掛けがある物がある』
『地下通路がある』
『四月朔日はここにてわたがたかりはある』


───ヒントは以上です。


全員が扉を開き、洋館の中へ消えた。
僕はそれを、試験官の後ろで見ていた。

どうやって、って?

簡単だよ。扉を開けたのと同時に霧の炎の幻覚と入れ替わっただけ。他人に見えなくなったのをいいことに、試験官の後ろで他のヒントも聞いていたんだ。
そして今、僕以外の全員が屋敷の中に入っていった。試験官もどっかに行った。来た道を戻って行ったから、たぶん特殊なルートで出口に行くか、別の場所に待機するんだろうね。意味が無いから追い掛けたりはしないよ。

さてと、じゃあ。謎解きの時間だね。
僕のヒントはある意味直接的で分かり易い。かなり大雑把だけど。どっかに何かを捧げる。しかもたぶん、その答えは他のヒントにあると思う。もし無くても、その更にヒントはあるだろう。
地下通路があるだとか隠し部屋があるだとか、他にも明確なのは結構ある。ただ、それの全てが正解に繋がるかは判らないけど。
例えばだ。『ちにみちるはち』。この場合、「ち」は血、地、智、値、色々ある。「みちる」は「満ちる」だろう、多分。地下通路があると既に言われているんだから、一つ目の「ち」は恐らく「地」。価値がある物が何処かにあるとも言われてるし、かといって力ばっかりで頭の足りない脳筋がハンターに足る訳がない。若しくは罠や敵の多い道だとか。二つ目の「ち」はそうなると、智でも血でも値でも当てはまる可能性はあるわけだ。……敢えて咬み殺しに行くのもいいかもしれない。

あとは、あれだね。最後のヒント。最下位にはきっとハンデがある。体力だけで否応なく落としては平等じゃない。別の物を求められるはずだ。
例えば、そう。朔っていうと月の出ない新月のことだけど、朔日っていうのは月の始めの日、つまりは一日。四月一日の別名は「わたぬき」。文から「わ」と「た」を抜いてみればいい。『ここにてがかりはある』。此処に手掛かりはある。
ほらね。つまりはそういうことさ。

地面や壁を注意して探してみれば、ちょうど試験官が立っていた所だけ、地面の感触が違った。

手を汚すのも嫌なので足で土を除けると、鉄製の扉で塞がれた石造りの通路が顔を出す。
黴臭くもなく、湿気ってもいない。
真っ暗な通路の奥へ、急な階段を降る。


僕を退屈させないで、ね。

一人、小さく呟いた。


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謎とか推理とか出来なくてサーセン。






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