ジャポンへ





有言実行。とばかりに、一週間後にイルミはジャポンへと飛行船で飛び立った。その手腕には感心するしかない。


「しっかし、何でまたアイツはジャポンに…?」
「十歳の行動力とは思えんの」
「イルちゃ〜〜〜〜ん!」
「お兄ちゃーーん!!」
家の門の前でイルミの後ろ姿を見ながら疑問を浮かべるシルバ。
感心したように呟いて顎をこするゼノ。
泣き叫ぶキキョウとミルキ。
特にキキョウはお近づきになりたくないような様になっていた。
一言言えるのは、イルミとの別れを惜しんでいるということは確かだが。



「あーすっきりした」
一方、さっさと山を降りて飛行船の中。
イルミは血の繋がった家族を振り返ることなく呟いた。
感慨などまるで無く、むしろ無表情ながらもその顔はどことなく満足そうだったとか。

だって、これで好きに行動できる。

生まれ直してからのイライラが消え、柄にもなく気分が高揚するのを感じる。
体と共に精神も一部幼くなっているのだろうか。

既にジャポンに家も買った。島一つをまるごと買い取り、そこに家を建てたのだ。
もちろん、純和風の屋敷。
柄ではないが、少しだけ楽しみだ。

「早く着かないかな」
着いたら一番に着物に着替えよう。



◆◆◆



飛行船が着陸し、ジャポンの地に降り立った。
やはりというか、自分ほどの年齢の子供が一人で出歩くのは珍しいのだろう。
視線を感じる。

面倒だし不愉快。

誰かに話しかけられる前にさっさと路地裏に入り、念を発動する。
「Nebbia・Costruzione・Aggiunta・Avviare(霧・構築・付加・発動)」
すうっとイルミの体を霧が覆い、晴れた時には雲雀恭弥がいた。
自分の姿を一通り確認して、一人頷く。

よし、ちゃんとイメージした通りになっている。

「先ずは…そうだね。島に行くのに船は買ってあるし、うん、布団とか食器とかが必要だよね」
雑貨なども欲しいわけではあるし、いっそ誰か使おうか。
こういう時、風紀委員やら財団やらがいたら便利なのに。
今まで大して気にもしなかったけど、以外と便利だとわかった。
まあ無いものは仕方がない。
頭の中で算段をつけながら、雲雀は町へ歩き出した。


◆◆◆



そこら辺の路地裏で適当に絡まれて咬み殺して人員を作ることに成功。
早速、雑貨や必要なものを思い付くだけ買って、見つけた人員()に運ばせて、買い取った船に載せる。

家に他人は上げたくないから、ここで解散。

「じゃあ、君たち。僕の居る町で風紀の乱れとか許さないから」


『はい、委員長!!お任せください!!!!』


…なんかね、いつの間にか委員長呼びになってたんだ。こんな草食動物に名前呼ばれたく無かったからかな。
ボロボロだとか知らないし、青ざめてるとかも知らない。
彼我の差も判らない、野生にも劣る草食動物なんてそんなものだよ。僕に絡んで来たのが運のツキだよね。

そういえば、こんなこともあったよ。
人員ゲットした後、買い物がてら町を見て回ってたら、立地だけで選んだこともあるけど、あんまり風紀がよくなかったんだよね、この町。
だから絡んで来たのは片っ端から咬み殺して、町の話を聞き出したんだ。
そうしたら、町長と警邏が黒だって。
上層部が腐ってるとかふざけてるよね。


それで気づいたら僕が町長になってた。不思議。
前の町長?さぁ?どこだろうね。
警邏?一人残らず咬み殺して解雇だよね。

まず始めに町の名前を並森に改めて、警邏の代わりに風紀委員会を設置したんだ。

そしたら僕が委員長呼びになった。

あ、頭からきちんと思い返したら理由あったね。まぁいいけど。


そんなわけで、僕の町、新生・並森町ができたわけだ。
君たちも来るかい?歓迎するよ。
ただし、風紀を乱さないなら、ね。



しっかし、コレ、僕まだ来て一日目なんだけどな。
名前も姿も雲雀恭弥の方だし。
まぁいいか。


……とか思ってたけどね、駄目な問題が浮上したんだ。


ジャポンに来てなんかいつの間にか町長になってて、そこまではいいんだけどね?
町長なんて立場になるにはやっぱり、ちゃんとした身分証明が必要じゃない。

そこで考えてみよう。僕はまだ十歳だ。そして『雲雀恭弥』は念(霧の炎)で作った幻だ。つまり当然戸籍なんか無い。
イルミ・ゾルディックは無駄に有名なあの『ゾルディック』なので、町長の戸籍にするにはちょっと憚られる。
更にこの世界、結構な割合で『戸籍が無い=流星街出身』な方程式が成り立つのだ。そうなると色々面倒なため、やはり戸籍は必要だ。

結果、どうするか。


そうだ、ハンター試験を受けよう。

こうなる訳だ。

だってほら、これから先もこっちの姿で行動することも多いだろうし、後々になっても便利だろう。
ハンター試験には強い奴も参加するらしいし、咬み殺すのも良い。
それに家とか裏の繋がりとか使って戸籍偽造するよりも良いしね。だって一応本物だから。

そんな訳で、丁度一週間後にある試験に参加して来ようか。





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