夢の中で還る
―やっぱり『私』は『僕』なんだ




気づくと、真っ白な空間に居た。
上も下も判らなくなりそうな、白一色の世界に立っていた。

上と思われる方向を見上げ、はて、何故自分はこんな所にいるのだろうかと考える。


おかしい。
諸々の案件やら始末書やらの整理が漸く一段落して、久々の休みを満喫しようと布団に入って目を閉じたはずなのに。



「これは……夢?」

目を閉じて眠ったはずなのだから、そうかもしれない。それならばこの異様な空間にも納得できる。

自分の体の変化にも。

声が、高いのだ。いや、女子の中では低い方ではあるだろうが、今世の自分よりは高い。聞き覚えのあるそれは、前世の『私』の声。
髪も、今更ながら寝る前よりも長いことに気づく。

それにしても何故、と思考が初めに戻りかけた時、自分以外の声が聞こえた。


「……クフフ。随分と面白い世界に住んでいるようだ」
「……誰、」

突然背後から聞こえる声にそう返すものの、今の状況とその特徴的な笑い方から見当はつく。
振り返れば、予想通り。


「…南国果実」
「誰がパイナップル頭ですかっ」

「別にパイナップル頭だなんて言ってないよ」
ワォ。
本物の六道骸だ。
でもその返事、自分の髪型を自覚してるってことだよね。

「で、誰。ここ何処」
「ここは貴女の精神世界。貴女の夢の中だと思ってください」

一度咳払いして、何事もなかったかのように口を開いた六道骸に心中で笑った。

「じゃあなんで真っ白なの」
これは本当に疑問。
なんで真っ白なのか、全く心当たりがない。

「知りませんよ、そんなこと。ここは貴女の世界。貴女の心が映し出されるはずなのですから」
何か心に描けば、白くはなくなるんじゃないですか?

そう続けた六道骸に、一つ、心に浮かんだモノは。




サァァ…。



突然真っ白な世界に風が吹く。

一瞬閉じた瞼を開けると其処には。


「…おや、これは。何故このようなモノを?」
六道骸が意外そうに口を開く。
まぁ、それもそうだろう。


現れたのが、そこらにあるような町並みなのだから。

舗装された道路に立ち並ぶ塀。
電線と建物に切り取られた小さな空。

そして目の前に現れた家には『砂津城』の文字。

「…ここは、『私』の家。恐らくは、もう二度と見ることも戻ることも叶わない、『私』の故郷」

「……」

「上がれば?水くらいなら出してあげてもいいよ」


◆◆◆


宣言通り水を出して、居間のソファーに座って向かい合う。

「……先ほどの言葉は、」
せっかちだ。
腰を下ろしたばかりなのに。

「どれ?なんて言っても一つしかないか。その言葉のままだよ」
「…家だけならばともかく、貴女は故郷と言った。それはどういう意味です?」
「さぁね。名乗りもしないような人間に教えることなんて無いよ」
ばれるまで、前世のことなんて誰かに自分から言うつもりはないしね。


「……僕は六道骸です」
「そ」

「………名乗りました。教えてください」
「名乗ったからと言って教えるなんて誰も言ってないよ」
きっと今僕は、人を食ったような笑みを浮かべているんじゃないかな。
こうして自分のかつての家に入ると、自分は随分と『雲雀恭弥』に馴染んでいるように思えた。
懐かしくは思うけれど、特に寂しくはない。

『僕』には『並森』という居場所があるからかもしれないな。

ははっ。六道骸が狐に包まれたような顔をしているよ。

「……では、貴女の名前は?僕だけ自己紹介したのではアンフェアでしょう?」


「…そう、だね、」

意識が引っ張られるような、不思議な感覚がする。
両手を見れば透け始めていた。

あぁ、目が覚めるのかな?
タイミングの良い。
「それじゃあ、もしもまた出会えたら。その時に教えてあげるよ」
またね、南国果実。



その言葉を最後に、僕は目を覚ました。





5/5
prev/back/next

- ナノ -