異邦の影を探しだせ―一
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夜。
古い屋敷にて、夜の静寂は破られる。
「昌浩っ!」
「歯ーーーーっっっ!」
歯の一つ一つが人の頭ほどもある大きな髑髏と、それに相対する少年と足元の白い獣。
「あたた」
「おいおい、しっかりしてくれ、晴明の孫」
少年と獣の話し声と屋敷が破壊されていく音が夜の都に響く。
「…やれやれ。元気が良いですね」
青磁の色の髪の、異国風の衣を身に纏う青年は、少年が髑髏を倒す様子を離れた屋根の上から見ていた。
髑髏が少年を追いかける。
なかなかにシュールな絵面だ。
「オンアビラウンキャンシャラクタン!」
少年がそう唱えると、髑髏の動きが止まる。
「謹請し奉る、降臨諸神諸真人、縛鬼伏邪、百鬼消除、急々如律令!」
少年がその言葉と共に放った符が髑髏の額に当たり、まばゆい閃光を放った。
辺りにすさまじい咆哮が響き渡る。音源は髑髏だ。
そのまま髑髏は黒い煙へと姿を変え、突風となって四散していった。
「お、終わった……」
ピシリ。
不吉な音が聞こえた。
「ぴし……?」
そう繰り返し、呟いた少年は、嫌な予感に顔を引きつらせる。
その次の瞬間。
大音量と共に屋敷が崩壊した。
少年と白い獣を巻き込んで。
「わーーーーーっっっ!」
「…一安心、ですかね?後は騰蛇が連れて帰るでしょう」
少年の叫ぶ声を欠片も気にせず、青年はほけほけと笑う。
そのまま周囲に張っていた結界を解いて屋根の上から姿を消した。
■□■
とある屋敷。主の部屋に、青年は降り立った。
「――ただいま帰りました」
「おぉ、お帰り、太裳。昌浩はどうであった」
太裳と呼ばれた青年は、主――安倍晴明に見てきた様子を語った。
「どうせ、見ていたのでしょう?」
呆れた様にそう締めくくる太裳に、晴明はほけほけと笑う。
「やはり気づいておったか。何、お主から見た感想が聞きたいのよ」
「…だいたいご想像の通りですよ。今のままでは、騰蛇以外の十二神将たちはあの子を認めはしないでしょうね」
「お主はどうなのじゃ」
「私ですか?そうですね…。期待はしていますよ。これから彼は強くなるでしょう」
「…そうか。ならば良い。これからもあやつを見てやってくれ」
「はい。……あぁ、騰蛇が帰ってきたようですね。では、私はここで失礼しましょう」
太裳はそう言って音も無くその場から姿を消した。
「………やれやれ。昌浩もまだまだじゃのう」
一人になった部屋で晴明は呟き、紙と筆を取って何かを書き始めた。
起きた孫の反応を心の内で想像しながら。
朝。
邸中に、晴明の思ったとおりの反応をする孫の叫び声が響き渡った。