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「おーい!蔵ー!」


部屋の窓を開けて、隣の家の窓を叩いた。

「漓凰やん。どうしたんや?」
カラカラと、窓を開ける十年来の幼馴染みの姿。


「『なんや?』じゃないやろ!今日蔵の誕生日やない」
「おおー。よう覚えとったなぁ」
大袈裟に驚く仕草をする蔵にちょっぴりイラッとする。

「私やって流石に幼馴染みの誕生日忘れたりしないわ!」
「ははっ、すまんすまん。しかしまぁ、もう夕方やで?忘れてた思うやろ」


朝は時間無かったから言えなかっただけだし、こういうのはやっぱり直接言いたいじゃない。
少し膨れつつそう返してやれば、返事は返ってこなかった。


「?蔵ー?」


「……」


窓から見えない位置に顔が隠れてしまったので、蔵の表情が見えない。

「蔵ってば!まだ話終わっとらんやけどー」


「……おん、すまん。なんや?」
漸く顔をこちらに向けた蔵は、少し目の下が赤いように見える。
夕焼けのせいかな?
まぁいいや。


「お誕生日おめでと。お花見行こ」
「サンキュ。…ええけど。いつ?」
「今」

「……漓凰の母さんええって言っとたんか」
「もちろん。蔵どうせ暇でしょ?帰る時に神社の前通ってきたんやけど、桜満開でとってもきれいだったし、屋台出てたし。蔵の誕生日お祝いのついでに行こ?何か一個くらいならおごるよ?」


帰り道、桜がとってもきれいで、見とれてたら蔵の顔が浮かんだ。
一緒に見たい。
あのきれいな桜を蔵に見せたい。

いいって言ってくれるかな?



「……」

「……」

「……」

じー。

「……」

じー。


「……はぁ、そんな目で見んといてな。行く、行くからちょっと待ってくれ」



「やった!じゃあ十分後玄関ね」




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