君がいるから
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「ルッスーリア様、お客様が御見えです」
「あらん?もうそんな時間なのねぇ。こっちに通してあげてちょうだい」
「はっ」
◆◆◆
「やっほー、ルッス!」
「チャオー、漓凰ちゃん。久しぶりねぇ」
「うん、二週間ぶりー。元気にしてた?」
短いポニーテールを揺らしながらやって来たのは、常よりもややテンションの高めな漓凰だった。
「それにしても、クロむんはまだ来てないんだ?」
「ええ、でももうすぐ来るはずよ。さっき連絡があったわ」
棚を開けながらルッスーリアが言う。
「ところで、今日は一段とテンションが高いわね。何か良いことでもあったの?」
「ふっふっふっー!何が良いことかって、そりゃ勿論!ルッスとクロむんとチョコを作ることですよ!!」
そしてあわよくばクロむんのチョコを……!
ああ、甘くて美味しいチョコがあたしを呼んでいる…!!
「よだれ拭きなさい、よだれ」
「はっ!?」
「チョコを食べるのが目的だったの?アタシはてっきり雲の彼にあげんむっ」
「ああぁあああぁあわわわっっ!!そそっ、そうだけど!!言っちゃだめええぇぇ!」
わたわたと、日本人の平均からしても小柄な体で、真っ赤な顔で慌てる様は見てておもしろゲフン可愛らしいとルッスーリアは思う。
「どうしてよぉ。別に良いじゃない。減るもんでもないし。漓凰ちゃんの恋バナには興味があるのよぉ」
比べてルッスーリアの背は大分高い。背伸びをしてやっと口を塞いだ漓凰の手など、あっさりと外してしまった。
「はっ、話さないからね!?っていうかルッスしゃがんでよ!口塞げない!!」
「うふふっ。誰が塞がれると分かっててしゃがむのよぉ。それより漓凰ちゃん、一回部屋には帰ったの?」
「?ううん。報告終わって真っ直ぐこっち来たよ。それがどうかした?」
きょとん、と手を止めてルッスーリアを見る。
単じゅゲフゴフ素直だ。
「せっかく二週間ぶりに帰ってきたんだから、アタシみたいなのより愛しの彼(はーと)に真っ先に会いに行くべきだったんじゃなぁい?」
ボフン、と効果音が似合いそうな勢いで、漓凰の顔がまた赤くなる。
やばい何コレ楽しい。
「いいいい愛しのって!!!?別にそんなのじゃないんだからっ!!………はっ!待って今の嘘!いや違う今の忘れて!?」
「無・理・よん」
「うにゃああああぁぁ!!!?」
やめてえぇぇぇ!!
――
―――
―――――
「と、ともかくね、ほら、家でチョコ作ったらばれちゃうでしょ?またすぐ部屋出てもおかしいし。だからね、こっちで先に作って、帰った時に驚かせたいなぁって思ったの。恭弥の驚いた顔って貴重じゃない。いっつもあたしが驚かされてばっかりだし、たまにはあたしが見返してやりたいなぁって」
漸く落ち着きを取り戻した漓凰が、未だ赤い顔でぽしょぽしょと溢す。
「うんうん、つまりは愛ってヤツね!!」
「いやちょっと待って、ねぇ!?どこからそんな飛躍したの!?」
いやぁ、面白くってつい。
内心でそう呟いたルッスーリアの漓凰弄りは、クロームが到着するまで続いた。
◆◆◆
「ふぅ…。つっかれたぁ」
クロームが来た後は三人で普通にチョコを作ったが如何せん、その前がダメだった。
いくらテンションが高めだったとはいえ、あの取り乱し様はどうだろうか。思い出すと別の意味で恥ずかしくなる。
たとえクロームから(きっと)愛情のたっぷり詰まった甘いチョコを貰ったり(全あたしが歓喜した)、ルッスからプロ顔負けのチョコレートケーキを貰った(美味しかった)としても。前半の諸々の疲れと恥ずかしさはどうにも拭いきれなかったようだ。
二週間ぶりの自分の部屋の前に立つ。
恭弥には部屋の合鍵を渡してあるし、今日は非番だったはずだ。
部屋にいたらどうしよう。
この妙に高いテンションを引き摺ったまま突撃してしまいそうだ。
それできっと、無言で貶されるんだ。……あれ、自分で想像しててちょっと悲しくなった。
まあいいや。居たら居たで。女は度胸よ!チョコ渡すくらいなんでもないわっ!!
でも、もし恭弥がいなかったら、少し寝ようかな。
居ないんだったら、リフレッシュしてから渡した方がきっと良い。
はしゃぎすぎたのもたしかにあるとは思うけど、やはり長期(というには微妙だが)任務の疲れも残っているようで、なんだか眠い。
パターンを二通りほど考えた辺りで、少しばかり雲雀がいることを期待して、漓凰は扉を開けた。
「………な、なっ、なにこれええぇぇぇ!?」
その声は、防音仕様の部屋にまで届いたとか届かなかったとか。
◆◆◆
「ボスボスボ(略)スボスボスゥゥゥ!?」
ドバタァンッ!
!
「「五月蝿い」」
チュイン。
「危なっ!?」
衝動(というか衝撃)のままに、ボスである綱吉がいるはずの執務室の扉を壊す勢いで開けた。
重厚な扉の丈夫なはずの蝶番が心なしかぎしりと悲鳴を上げたが、誰も気づかない。其所に、お怒りのリボーンの放った銃弾が、漓凰が避けたせいでぶちこまれる。
やめて!扉のHPはもう0よ!!
忠実に自分の仕事をしているだけの扉に対して、二人ともなんという暴挙か。
ただでさえよく(主に幹部に)吹っ飛ばされるというのに。
「いきなり危ないじゃん!!」
しかしやはり彼らが扉の苦労に気づくことは無いのだ!残念なことに。
「うるせえのが悪い」
「リボーンに同意するけど、一体何の用?バカな下らない話とかノロケとかだったら今度は一年くらいの長期任務逝かせるよ?」
「それは勘弁んんん!てかいくの字が違くないっ!?違うの!違くって、恭弥どこに行ったか知らない?」
首をブンブン振ってアピールする漓凰に綱吉は微笑む。
「何?やっぱりノロケ?」
どうしてだろうか。にっこり素敵な微笑みを浮かべているはずの綱吉の背後に、黒いオーラが視覚化されそうな気がする。
真っ青な顔で漓凰が更に必死にブンブンと首を振る。
もう泣きそうだ。
……楽しい。
それが彼ら二人の心情だなんて、彼女は知らない。
「で、何?」
漓凰の顔が青ざめるのを知った上で、あえてにっこりと笑う綱吉。
リボーンが一人、心の中で哀れんだ。
「あ、あの、だから恭弥……」
「え?」
にっこり。
ピルピル。
「……。………部屋が、大変なことになってて、………恭弥の仕業だと思うので、探してマス…」
漓凰が渋々言うと、綱吉の目がきょとんと瞬いた。
「大変なこと?」
◆◆◆
「あははははははっ!!何コレ傑作!!」
「…こりゃまた……ププッ…」
「笑うなぁっ!!!!」
『大変なこと』に興味を持った綱吉とリボーンは、ボス権限まで使って漓凰の部屋にやってきた。そこ、職権乱用とか言わない。
既に半泣きの漓凰に構うことなく扉を開き、上記に至る。
オレンジと白系統で纏められていたはずの部屋は、全てがピンクに染まっていた。
白に近い薄いピンク、濃いピンクなど濃淡はあるが全てピンクだ。
床も壁も天井も、はたまたベッドやカーテン、見覚えのない大量のぬいぐるみまで。
ここまできたら完全に嫌がらせとしか思えない。
因みに全て可愛らしいレースやフリルがあしらわれており、かつ上品に見えるという無駄に高度な仕様だ。それが更に気に障るのだが。
「ねっ!?こんなことするの恭弥くらいでしょ!?」
「ぷっ、くははっ!でも恭弥がこんな部屋作る?」
「それは!……無さそうだけど、そもそもあたしの元の家具はっ!?鍵持ってるのだって恭弥くらいなんだから、恭弥以外に誰がいるの!!」
……。
………。なぁ。コレ、幻覚だろ?
うん。結構強いけど恭弥の幻覚だね。
…アイツ、気づいていないのか?
仕方ないんじゃない?だってほら、漓凰ってば純粋な雷の炎しか持ってないし、幻覚の耐性かなり低いし。今日恭弥に任務任せた時、一気に不機嫌になってたし。そのせいじゃない?
………苛々発散の対象にされたのか。
(てか原因お前じゃねーか)
「え?」
「…」
「まあとりあえず。恭弥は今任務でパリに行ってるよ」
「ええっ!?今日ってたしか非番だったんじゃ!?」
「あれ、よく知ってるね。まぁ本来ならね。急な任務だったからさ、丁度良く恭弥が近くに居たから押し付けちゃった」
テヘペロッとかキラッとかが語尾に付きそうなほど悪びれない綱吉の言に、きっと件の彼が居れば即咬み殺しに行くんだろうと、残る二人の思考がシンクロした。
「……と、とにかく電話!」
――――
――――――
ピ、ピ、ピ。プルルルル……。
『誰』
「あ、恭弥!!あたしの部屋大変なことになってるんだけど、あれやったの恭弥?」
『ああ、漓凰か。漸く気づいたの?思ったより遅かったね』
「何してくれはりますの!!」
『何その口調。頭大丈夫?病院行ってきたら?』
「一体どこ心配してるの!?生憎頭は正常ですぅ!それより、あたしの部屋ピンク一色にしたのって恭弥?」
『うん。いらっとしてつい。文句は沢田綱吉に言ってよね。僕今日非番だったのに。』
弱いのばっかだし。
「…………つまり、八つ当たり?」
『うん』
「元凶はあんたかーーー!!!!」
ぐわっと後ろを振り向くが、既に二人は居なかった。
「うにゃあああああ!!!!」
『頭大丈夫?』
「大丈夫ですっ!!」
◆◆◆
『とりあえず、まだ終わってないから帰るのは早くても明日の朝かな』
BGMにドンパチ聞こえるのはそのせいですね。咬み殺しながら通話してたんですね。何この人コワイ。
『じゃあね』
そう言ってプツリと切れた電話。
『雲雀恭弥』の文字を写すディスプレイを眺めて、漓凰は無意識に溜め息を吐いた。
今日は2月14日で、巷じゃバレンタインデーなんて言われてる日。
相当頑張って出張を今日に間に合うように繰り上げて帰ってきたのに、一番大事な彼がいない。
「……………よろしい、ならばやけ酒だ」
そう呟いた漓凰の目は据わっていた。
ピンク一色の部屋に一人、ハンバーグをお供にグラスを空けていく。
「…恭弥なんて………恭弥なんか…。………恭弥…、………むぅぅ……」
大分酔いも回り、大して強くない漓凰は真っ赤な顔で譫言のようにぶつぶつと繰り返す。
そのくせ酒だけはかっぱかっぱと飲み込み、皿の上のハンバーグを意味もなく押し潰す。
暫くぐずぐずとハンバーグを弄っていたが、やがてそのうちに糸が切れたように動かなくなった。
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