初詣 ※一人称:俺(♀)
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ゴーン…
____ゴーン…
________ゴーン…
除夜の鐘の鐘が鳴り終わり、余韻だけが辺りに響く。
この家の主である漓凰は、除夜の鐘も聞き、いざ寝ようとしていた。が、それは彼女の携帯が鳴ったことにより邪魔される。
「……誰だよ」
そうこぼして携帯のディスプレイも見ずに電話に出る。
「…もしもし」
《遅いよ》
開口一番にそれか。
というか遅いと言われるほど待たせてはいないはずだ。
これなんて理不尽。
「…なんだよ、雲雀。俺はこれから寝るんだ。後で掛け直すから今は寝かせろ」
自分は寝るのだということをアピールするが雲雀にそんなものは通用しない。
きっと史上最凶のgoing my wayだ。
《今からそっち行くから。5分で準備しておいて。できてなかったら咬み殺す。》
「え゛!?ちょっ、まっ…」
死刑宣告にも近い言葉を置き去りに、電話は一方的に切られる。
「……マジか…」
残された漓凰は切られた携帯を見下ろして呟いた。
◆◆◆
――ブォン。
キキッ。
微かにバイクが止まった音が聞こえた。
ピンポーン。
聞こえたチャイムの音に時計を見れば、電話からきっかり5分後。
小さくため息を吐いて漓凰はドアを開ける。
立っていたのはやはり雲雀で。
「なんだ。準備終わっちゃったんだ」
つまんない。
雲雀の顔にそうでかでかと書いてあるのが読める気がした。
「…年明けて数分で初バトルは遠慮したいんでな」
「いいね、それ。早速殺ろうか」
「だから遠慮しとくって言ってんだろ」
『やる』の漢字変換絶対間違ってるだろ。と突っ込みながら、漓凰はあることを思い出す。
「ああ、そういえば。雲雀。あけましておめでとう」
「おめでと。忘れるとこだったよ。早くこっち来て。行くよ」
また脈絡なく話を始める。
雲雀の悪い癖だ。
そして理不尽。
どうせ雲雀に何言っても意味がない。
そんな諦めの境地にたどり着いた漓凰は新年早々遠い目をしておとなしく家に鍵をかけた。
「乗って」
言われたとおり雲雀のバイクの後ろに乗る。
「手離さないでよ。落ちても知らないから」
そう言って雲雀はバイクを発進させた。
◆◆◆
バイクに乗せられて数分。
着いたのはお馴染み、並盛神社。
初詣の人々でにぎわっている。
はっきり言って、意外だ。これが漓凰の一言目の感想。
いや、もう意外の域を飛び越えている。
天変地異の前触れだろうか。
雲雀がわざわざこんな時間に家に来るのはまぁ、『雲雀だから』で納得できる。(それもどうなんだ)
けれども、わざわざ人が群れてるような所へ雲雀が自分から(ここ重要)来るなんて意外だ。否、異常だ。
今年の初日はきっと西から登ってくるんじゃないか。
ギリギリギリ。
「今何か失礼なこと考えたでしょ」
只今、頭をわしづかみにされておりマス。
「ソンナコトコレッポッチモカンガエテナイヨ」
雲雀…なんて恐ろしい奴!
「ふーん」
ギリギリギリギリ。
雲雀は手を緩めない。
それどころか強くなっている気がする。
ようやく雲雀が手を放すころには漓凰は痛みで涙目だった。
自分は女子の平均身長よりは高めなのに、そんな自分よりさらに頭半分ほど高い雲雀が若干気に入らない。
なんて、痛みのあまり別方向へ思考が逃避しかけた所で、帽子を目深に被った雲雀に呼び戻された。
帽子は変装のつもりなのだろうか。私服だし。私服だし。(重要なので二回)
「ほら行くよ」
そう言って雲雀はさっさと歩き始める。
遅れないように後を追うものの、人の多いこと。
境内に入ると更に増えて、あっという間に流されそうになる。
「まったく」
不意に雲雀が漓凰の右手を掴んだ。
「うぉっ!?」
「…仮にも女だったらもう少しそれっぽい声出しなよ。はぐれたら面倒だからね。……それにしても、手冷たくない?」
それはお前にバイクに乗せられたからだ、とは言わない。言えない。
「まったく」
さっきと同じ言葉を繰り返して、雲雀は無造作に漓凰の右手ごと自分のコートのポケットに手を突っ込んだ。
「なっ……!」
「煩くしたら咬み殺すから」
珍しく顔を赤くする漓凰の反応をこっそり楽しみながら雲雀は参拝の列に並んだ。
(まぁ、なんだかんだ言って、雲雀といるのは楽しいのは認める。ただこんな天然タラシみたいなことはやめてほしい。切実に。心臓が持たん)
(僕がこんなことするのは漓凰だけだって、気づいてるのかな?)
(絶対本人には言わないけど)
(まぁ、漓凰が気づくまで放っておいても面白そうだよね)
((今年も雲雀/漓凰と一緒にいられますように))
++ 初詣 ++
(何お願いしたの?)
(言うわけないだろう(言えるわけがない))
(ふーん。まぁいいや。帰ったらハンバーグ作ってよ)
(え、俺が?(しかもそこはおせちじゃないのか)……仕方ねぇなぁ)←諦めの境地
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