クリスマス




今日は12月25日。
時刻は午後7:30。
並盛商店街の広場の時計台の下のベンチに、漓凰はいた。

(どーしよっかなぁ…)

ぼんやりとそう思いながら、目の前を歩いて行く人達を眺める。
クリスマスというだけあって、目の前を横切って行くのはカップルが多い。

(雲雀さん……)

今日は雲雀と出掛ける約束をしていた。
その待ち合わせの時刻は6時。
しかし、仕事が終わらず、家に帰っていてほしいとだいぶ前に雲雀から連絡が来ていたのだ。
にもかかわらず、漓凰はここに居続けている。
「あ、雪……」

ひらひらと、いつの間にか白い雪が舞い降り始めている。

「……雲雀さんと一緒に、いたかったなぁ」
ホワイトクリスマス。

そう呟いて、漓凰はどこへともなく歩き出した。



◆◆◆




時計を見れば時刻は8時。
雪は本降りになり、時刻も合わさって、外を歩く人はほとんどいなくなった。


商店街を歩きまわっていた#name#は、いつの間にかまた、あの時計台の前に戻ってきたことに気づいた。
よほどなにも考えずに歩いていたらしい。

さっきと同じベンチに腰掛けて、さっきと同じように雪の降り続ける空を見上げる。



「……雲雀、さん…」



「僕が、なんだって?」

「ふぇぁいっ!?」

間抜けな声を上げながら勢いよく振り返った漓凰の目に映ったのは、紛れもなくたった今口に出した人で。



「ひ、雲雀、さん……?」

「全く。何考えてるの、君。こんな時間に外にいるなんて。雪降ってるのに」


そう言って漓凰を見る雲雀は、微かにだが、息が荒くなっていた。



「ほら、帰るよ」


つかつかと近づいて漓凰の手を取ると、さっさと歩きだす。

速足で歩く雲雀を追って、漓凰は小走りになった。




「………冷たい」

唐突に雲雀がそう言う。


「え?」

漓凰が意味が解らずそう口に出せば、不機嫌そうな声が返ってきた。


「…手。君、まさか6時からずっと外にいたわけ?」


「…アハハ」

「バカじゃないの」



うおう。
漓凰に一万のダメージ。
効果はばつぐんだ。



「…全く。バカでしょ」

今度は断定ですか。



「仕事終わらせて家に行ってみればいないし…。」

「え?家に来たの!?」

予想外だ。
いや、まぁ、予想内だったことなんてないけれども。


「こんな時間なのに帰ってきてないって言われて、心配したんだからね、君の頭」
……一瞬でも期待した私がバカでした。



「ホントに、心配したんだから」

その後の小さな呟きは、聞こえなかった。



◆◆◆





ふと、雲雀の足が止まる。
うつむいていた顔を上げれば、見えたのはとても見覚えのある校舎。


「…どこ行くの?」

「今更何言ってるの。応接室に決まってるでしょ」

いや、決まってないし。

初めて聞いたし。



そのままずるずると引き摺られて応接室へ。


灯りを点けて暖房を入れて。
少し経って暖かくなってきたころに、雲雀が給湯室に入っていった。
持ってきたのは、ホットコーヒー2つと白い箱。


「何?それ」

「開けてみればわかるよ」


じゃ、遠慮なく。

パカリ。

「これ、ケーキ…?」

「見たらわかるでしょ」


高級そうな、美味しそうな、チョコレートケーキ。


「どうしたんですか、これ?」
「僕が買って何か悪い?」

「い、いや、何も」
またも意外だ。


「早く食べなよ。せっかく買ってきたんだから」

「え?もしかして私のために、ですか?」
思わず目を丸くする。


「それ以外に何かある?」



自分のために雲雀さんが買ってくれた。
それが嬉しくて、自然と笑みが零れた。


「…えへへっ」


そしたら、雲雀さんの顔もほんの少しだけ緩んだように見えて、もっと嬉しくなった。


「雲雀さん」

「何」



「今、私、とっても幸せです」



そう言った時の驚いた雲雀さんの顔を、一生忘れないだろう。





(……反則だ)
(来年も、再来年も、ずっと一緒にいれたらいいな)
(…けど、たまにはこんな日もいいね)
((メリークリスマス))



15/19
prev/back/next