アイリス1


―久しぶりに帰ってきた。


約一ヶ月ぶりだったか。

そう思いながら寝静まった廊下を行く青年が一人。
高く結った黒髪は、同色のロングコートと共に雨に濡れそぼっている。

今回の彼の任務はアクマの破壊。
その任務自体はほんの数日で終わったのだが、次から次へと近くの町にアクマが現れ、それらを全て破壊し終えた時には一ヶ月が過ぎようとしていた。


明かりの漏れる目的の部屋の前で足を止めた。

コンコン。

ノックもおざなりに、許可される前に部屋に入る。
いつものように足元に広がる紙を踏み敷いて部屋の中央にある机に近づけば、案の定、巻き毛のシスコン野郎…コムイが寝ていた。
「おい。起きろ、コムイ」
揺すっても起きない。
蹴っても起きない。
変ないびきをかいているだけだ。

ぶった切ってやろうか。

そんなことを考えていた時、丁度リーバーが部屋に入ってきた。
一ヶ月前と変わらない。
いや、むしろひどくなっているように見える。
まるで亡霊だ。

「おお…神田、帰ったか。つーかずぶ濡れ!?…まぁいい。一ヶ月お疲れ様」
「ああ。任務報告の書類だ」

(濡れてんのはスルーか…。)
「ああ、分かった。預かる。」
「チッ」
「すまねぇな。まさかコムイが寝てるとは思わなかった」
あんなにやれと言っておいたのに…!などと呟いているリーバーの背からは殺気のようなものがにじみ出ている。
邪魔をするつもりも巻き込まれる気もさらさらないので、リーバーに書類を預けて早々に部屋を出た。

雨は、帰ってきた時よりも勢いを増し、轟々と鳴っている気がした。




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