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部屋に戻ろうと廊下を歩いていれば、パタパタと急ぐ足音。
自分の部屋の前で、その足音の主を見つけた。

「……リオウ?」

ジェリーの話では、こいつの任務はあと数日かかるはず。


「あ…神田、さん…」

リオウはずぶ濡れで、大切そうに紙袋を持っていた。
青い目が、何かを決心したように煌めく。

「あ、あの、…神田さん!あの、えと、お誕生日おめでとうございます!」
そう言って顔を真っ赤にするリオウに、俺は一瞬呆然とした。

待てよ。今日は何日だ?
時間の感覚が全くない。

考えてみれば確かに、今日は俺の誕生日だったかもしれない。
だいたい、俺の誕生日を覚えている奴がいたことに驚きだ。

「あ、あの、神田さん…!それで、あの、これ、プ…プププッ、プレゼントなんですけど…!」

そのためだけにずぶ濡れにまでなって帰ってきたのか。

そう言ってリオウは紙袋を持ち上げるが、呆然とした俺を見て何を思ったのか、うつむく。

「で、でも、こんなのいらないですよね…」

そう言って紙袋を下げようとする腕を、俺は無意識に掴んでいた。

「!?」
「……もらっとく」

不器用にそれだけ言ってそっぽを向くと、リオウは花が咲いたようにふわりと笑った。
それを見た俺は、なんとも言えない想いが胸の中で渦を巻き、気が付けばリオウ抱きしめていた。

「あ、ああぁあぁぁあぁあの!?かかか…かっ、神田さん!?」
「ユウ」
「え!?」
「もう少し。少しだけ、このままで…」

轟々と鳴っていた雨はいつの間にか、まるで全ての音を吸収するような、無音の雨へと変わっていた。


――全てが沈黙した薄闇の中で、互いの鼓動と体温だけを、感じていた――





(袋の中身は黒曜石の飾り玉がついた髪紐と、アイリスを象ったシンプルなペンダント)
(6月6日の誕生花、アイリス。その花言葉は…『恋の使い』)
(…確かにそうかもしれないな)



→オマケ




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