夕焼け色の想い
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アイツを助けたのは、偶然だった。
あの日は、何もやることがなくてぶらぶら街を歩いていた。
そしたら、並中生が不良共に絡まれてんのを見つけた。
この時、オレの頭の中で
並中生が不良に襲われる→ヒバリがキレる→十代目に迷惑がかかるかもしれない
という流れが浮かんだ。
最近はリボーンさんがアノヤローもファミリーにしたいと考えているらしく、ヒバリと関わることが多くなった。
だからきっと何らかの影響が十代目にも届くだろう。
そこまで考えて、オレは並中生を助けに入った。
「おい、てめーら。何やってんだよ」
そう言って不良共を睨み付ける。
どうやら向こうはオレを知っているらしい。
まぁどうでもいいが。
「げっ!」
「獄寺じゃねぇか」
「チッ。おい、あっち行こうぜ」
オレの姿を認めた不良共はさっさと逃げていった。
背後にいる、結果的に助けた並中生の女子の目には、周りの奴等と同じように微かに怖れが浮いていて。
ズキン。
まっすぐなアイツの目に怯えとオレが映るのが見えて、なぜか胸が痛んだ。
「あ、あの、た、助けてくれてありがとう…」
それなのに、アイツに礼を言われると妙な気持ちになった。
だが、悪い心地じゃねぇ。
「…別に。てめーのためじゃねぇよ。十代目のためだ。」
そんな訳のわかんねぇ感情を知られたくなくて、オレはソイツに背を向けてさっさと歩き出した。
◆◆◆
その次の日。
いつもの通り十代目のお迎えにあがって教室に入る。
今日は野球バカもいて、朝からげんなりした。
野球バカを見ないようにしながら何気なく教室を見渡すと、昨日偶然助けたアイツが目に入った。
……同じクラスだったのか。
今までまったく目に入らなかったクセに、気づいてからはアイツばかり目に入る。
無意識にアイツを目の端で探していたり、ノートの山を持ってやったり。
この間なんかは、久し振りに出た授業の実験でアイツが間違えているのに気づいて教えてた。
まるでオレじゃねぇみてぇだ。
けど、こんなオレも悪くねぇかもって思ったりとか、アイツのオレを見る目から怯えが消えていくのを見てむず痒かったりする。
アイツがオレに笑うと、心なしか嬉しくなる。
女に興味がないオレだったが、まっすぐなアイツは素直にキレイだと思った。
アイツといる時間が心地好く感じる自分がいる。
もっとアイツと居たい。
アイツの笑う顔が見たい。
もちろん十代目にも笑っていてほしいとは思うし、オレはずっとあの方と共に居たい。
けどこれは、この気持ちは、十代目に向けるような敬愛の気持ちとは違ぇ。
これは何なんだろうな?
◆◆◆
そんなことを考えた日から数日後。
オレに日直の当番が回ってきた。
けど、んなもんより十代目の警護の方が大事だ。
つーことで日直なんざ無視して十代目と帰ろうとしたら、黒川に捕まった。
黒川も今日の日直だったらしい。
それを見た十代目が、自分の仕事は全うしなければいけない(獄寺フィルター使用)とオレにお教えくださった。
だからオレはやっぱり気は乗らねぇが、日直とやらの仕事を片付けることにする。
◆◆◆
日直の仕事もほぼ終わった夕方。
黒川がオレに話し掛けてきた。
珍しいこともあるもんだ。
「ねぇ、アンタ。…あの子のこと、どう思ってるわけ?」
あの子というのはアイツのことか。
「は?いきなりなんだよ」
「アンタ、最近あの子とよくいるでしょ。女子嫌いで沢田命のアンタが。」
そう言われれば確かにそうかもしれない。
「で、どうなの?あの子は優しい子で、とっても傷付きやすいわ。もしなんとも思ってないなら……今後一切あの子に近づかないで」
そう、面と向かって言われて、また胸が痛んだ。
確かにアイツが笑うと嬉しくなるし、アイツといる時間は楽しく感じる。
アイツにはずっと笑っていてほしいとも思う。
この感情はなんなんだ?
こんなの、オレは知らない。
いや、知ってる。
見ないふりはもう止めろ。
知っているはずだ。
これは、そう。初めから。
アイツを助ける前。アイツを初めて見た時から。
そうか。初めから。
オレは、アイツが好きだったんだ。
「……で?」
「オレは、…アイツが好きだ」
「ウソじゃないのね?」
「あぁ」
「…なら、いいわ。あの子のこと、ちゃんと見てあげなさいよ」
そう言って、黒川は微かに笑った。
ガタンッ。
パタパタパタ。
そんな時、廊下から足音が聞こえた。
廊下に出ると、向こうのほうにアイツの走っていく後ろ姿が見えて。
まさか今の話が聞こえていたのか?
「アンタ!早くあの子を追いかけなさい!たぶんあの子、私達のこと誤解したわよ」
「は?」
「会話は聞こえてないと思うけど、こんな状況、誤解してくださいって言ってるようなもんよ!」
そう言われて、オレはアイツが消えた方へ走っていった。
◆◆◆
「……っふ……うっく…うう…」
押し殺した泣き声が聞こえる。
アイツが泣いているのかと考えると、胸が軋む。
タンタンタン。
わざと足音を立てて階段を上った。
扉の前まで行くと、泣き声は聞こえなくなって。
無理に止めようとしてんだろうなと思った。
ガチャ。
扉を開けて屋上に出れば、予想通りアイツが泣いていて。
「、あ…、ごく……でら、くん…?」
「…なんで泣いてんだよ、てめぇ」
オレを見たアイツは驚いたように目を見開きながら涙を落として。
「……なんでも、ない…よ」
オレにそう言ったアイツの顔は、けしてなんでもないようには見えなかった。
「どこがなんでもないんだよ。んな顔しやがって」
オレには言えねぇのか。
そう思うと柄にもなく少し悲しくなって。
声が若干低くなった。
「…あ、あの、ごく、でら君。あの、花ちゃんは、いいの…?」
花?花って誰だよ。………ああ、黒川か。なんでコイツが出てくんだよ。
「あ゛?なんで黒川が出てくんだよ」
「え…?……だって、さっき仲良さそうに、話してた、し、…………それに……」
そこまで言ってアイツは言葉を切った。
「『それに』?」
「……それ、に………好き、なんじゃ、ないの…?…花ちゃんのこと………」
そこまで聞いて、オレは右手で額を抑えた。
「…マジか…。チッ、黒川の言う通りかよ…」
黒川が言った通り、見事に誤解してるみてぇだ。
覚悟を決めて、オレはアイツに向き直った。
「……あ゛〜…。オレは黒川なんか好きじゃねぇよ。だいたい、なんであんな男女好きになんなきゃいけねぇんだよ」
「え………?」
「あー、クソっ!なんて言えばいいんだよ、ったく」
もどかしい。
恥ずかしい。
照れ臭い。
言葉にならないことを口の中で呟いた。
「……オレが好きなのは黒川なんかじゃねぇよ」
アイツは黙っている。
「…レが…………はお……だ」
「え?」
「だからっ!オレが好きなのはっ!おまえだって言ってんだよ!!」
一回目は声が小さすぎて、オレ自身でも聞き取るのがやっとで。
二回目は叫ぶように言ってしまった。
「……え………?………う、………そ……、…」
照れ臭くて、恥ずかしくて、そっぽを向いた。
「嘘じゃねー。……おまえが、好きだ」
耳が熱い。きっとオレの耳は真っ赤だろうな。
それと同時に、振られたらどうしよう、なんて女々しい考えが頭を過って。
ちらりとアイツを見ると、いつの間にか、止まっていたはずの涙がアイツの頬を滑り落ちていた。
「…っな!?なんで泣いてんだよっ!?」
またオレが泣かしたのかと慌てた。
やっぱりオレのことが嫌いなんだろうか。
「…ちが……う、…の。うれ、しくて………、…嬉しい、の…」
その言葉を聞いて一瞬思考が止まった。
「は?」
「わたし、も…。……私も、大好き、です…獄寺、君…!」
その言葉を理解した瞬間にオレは顔が真っ赤になったのを自覚した。
それを見てだろう。
アイツが泣きながら笑った。
「なっ!!笑うんじゃねぇよ!!」
口ではそう言うものの、笑っているアイツにオレも嬉しくなって。
アイツの優しくてまっすぐな笑顔に、ああ、やっぱりオレはアイツが好きなんだと思った。
「…まぁ、おまえが泣いてるよりはましか」
そう言って、オレはまだ少し赤いだろう顔でアイツに笑った。
そんなオレ達を見ていたのは、夕陽だけ。
+・.*夕焼け色の想い*.・+
(オレの心からの言葉)
(アイツに伝えよう)
(――愛してる)
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↑括弧内の空白を反転させると…
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