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すたすたと、迷いなく進む蔵に着いていく。
神社があるのは山の麓だったが、今は祭りの喧騒も大分薄れた山の中を歩いている。


「…どこまで行くの?」

明かりもなく暗い木々の中、奥へと進むのはかなり怖い。

「もう少しや」

蔵は怖くないのかな?
なんだか真っ直ぐ進む蔵がそのままどこかに行ってしまいそうで、思わずぎゅって繋いでいる手をぎゅって握りしめる。
そうしたら蔵が握り返してくれて、少しだけ安心した。




それからまた少し歩いていると、前を歩く蔵が立ち止まる。
蔵の背中を見ていたから視線を前に向けたら、目の前に小さな開けた場所があった。


「こっちや。おいで、漓凰」


手を引かれて行ったのは、開けた場所の真ん中。
大きな桜の木が一本あって、月の光に照らされていて、まるで桜の木が輝いているみたい。



「……きれい」


柔らかく輝く桜はとてもきれいで、なんて言ったらいいんだろう。
神々しいとか荘厳とか、神聖とか。
私じゃ語彙が少なすぎてそれくらいしか出てこないけど、そんな、どこか侵しがたい不思議な雰囲気を持っているような気がした。


「……どや?以前山に遊びに来たときに見つけたんや」

「…………すっごく、すっごくきれい…」


私より一歩先にいる蔵が振り返る。
月の光に照らされた蔵はとってもきれいに笑っていた。
蔵の背後で咲き誇る桜も相まって、まるで人間じゃないみたいにきれいだった。


「…あんな、漓凰。今日、誕生日おめでとうって、漓凰に言われてめっちゃ嬉しかったんねん。いろんな人に今日は祝ってもろうたし、そん中には女子もおった」


蔵の姿に見とれていると、微かに笑いながら蔵がそう切り出す。

「でもな、それでもいまいち心から嬉しいて思えなかった。何でかわかるか?今なら解るで。朝漓凰に会えのうて、きっと、そのせいやな。さっき南が言うてくれた『誕生日おめでとう』の言葉、俺、めっちゃ嬉しかったんや。今日聞いた中で一番や」



「そんでな、なんでこんな嬉しゅうなったんか、考えてたんや。漓凰が屋台に夢中になっとる間になぁ」

くすり。やっぱりきれいに蔵が笑う。

「そんで、答えが出た。せやからここに連れて来たんや。きれいやろ?俺の特別な場所や。誰かに教えたんは漓凰だけやで」

一度目を伏せて、もう一度蔵は私を見る。
今度は、笑っていなかった。


「なぁ、漓凰。俺、漓凰が好きや。これが、俺の答え。漓凰といればいつでも俺は笑えるし、ずっと漓凰の側に居たいとも思う。今思い返せば、たぶんずっと前から好きやったんやろうなぁ。」


「………なぁ、漓凰。…俺と、付き合うてくれへんか」



かちり。

その言葉に、私の中でピースがはまった気がした。



だって蔵。
私も同じ。
おんなじなんだよ。
蔵と一緒にいると楽しくって。
嬉しくって。
少しでも会えないと寂しくなるし、会いたくなる。
蔵の近くに女の子が集まるのを見るのが嫌で、わざわざ別の学校に入学した。


ずっとずっと、他の誰でもない私が、蔵の隣に居たいと思うよ。




いつの間にか、それは声に出ていたみたいで、言葉と一緒に頬を涙が滑り落ちていく。
あれ?何で私泣いてるんだろう。


そっか。嬉しいからかな。

私は蔵が好きで、蔵も私が好きだって言ってくれた。
気持ちが通じ合うって、こんなに嬉しいんだね。


そう言って、泣いたまま笑ったら、蔵も笑って、抱きしめてくれた。


桜はやっぱりとてもきれいに咲き誇っていて、月の光はさっきよりも明るくなっていて、私たちを見守ってくれているみたいだった。


end.
→あとがき→おまけ




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