『私』の証
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また生まれたのかと、まるで拒否するように、或いは生まれたと誇示するように、口から勝手に溢れる泣き声をそのままに、ただぼんやりと思ったのだ。


いったい幾度生を受ければ眠れるのかと考えながらも、三度目の生を得た。
はたして一度きりの生とは何だったのか。否、他の者には己のように前世の記憶などを持っているというわけではなさそうだ。ならば何故(なにゆえ)我なのか。

うつらうつらと微睡む幼子の意識の片隅で、応えの無い問いを向ける場所もなくただ放る。

生きるということも、死ぬということも、前世で、彼の戦国で、既に十二分に体感している。
今更この世で何をしろというのか。
だが、一度受けた生を放り出すなどはできはしない。してはならないと、愛してくれたモノがいたから。

これまでと同じように、知を得、技を会、我は我らしく在るのみ。
あの時、認め、受け入れ、愛してくれた、彼らに
胸を張れるように。


◆◆◆


長らく子宝に恵まれなかった夫婦の間に、待望の第一子として我は生を受けたらしい。
夫婦の仲はよかったが、如何せん、存在としては凡愚に過ぎた。
我が子供らしからぬというのもあったのやも知れぬが、夫婦は我を恐れ始めた。これでも相当に諸々を耐え忍んでいるというのに、人々のその、異物への拒否反応は随分なものだ。時代は移ろえど、やはり変わらぬものもあるらしい。
いつの間にやら新しい子をこさえ、いよいよ本格的に我を畏怖する男女。そちらがそうなら最早、遠慮も何も要るまい。ほぼ育児も放棄され、家の片隅で勝手に育っている状態である。他所から見ても親とは呼べぬ有様であろうし、呼ぶ気も無い。
中学生にして既に、ネット家庭教師として顔も歳も隠しながら、人一人生きられるだけの金を得ている。男女は我をいないものとして扱い、血だけ繋がった二人の弟妹にも同じ事を強い、そのくせ我に怯えるように生きている。
ああ、なんと煩わしい。
世が世ならば、さっさと家を出て行くというのに。体裁だけは取り繕いたいらしく、家を出ることは未だ叶わない。
こんな時ばかり、自分が親だと強弁して。そも、我から歩み寄る意思はあった。拒んだのは、繋がりを切ったのは己であろうに。呆れを通り越していっそ滑稽である。
どうせどうやって食いつないでいるのかも知らぬくせに、近所や弟妹の親から我への讃辞を聞いてはまた不気味なもののように、こそりこそりと我を見遣るのだ。

煩わしいが、それに何か策を講じる価値も無いと歯牙にも掛けず捨て置いたのが悪かったのか。

最早有るまいと思っていたが、一欠片でも、『私』であった頃の温く甘い感情が未だに残っていたのだろうか。
前世も、その前も、家族というものの温もりを感じていた。
だから、あんなものでも血の繋がった者であるからと、目こぼししていたのだろうか。

ああ、あの時、全力で以て潰しておけば良かったのかも知れぬ。


十六になれば、奨学金制度を利用して生まれた家から遠く離れた高校を受験して当然主席を取り、将来に向けて下準備を始めた。
それももうあと一年で終わろうという頃。
政府の者だと名乗る輩が訪ねて来た。

そして知ったのだ。
くだらない歴史修正主義者とか審神者とかいう存在を。
そして我が、名ばかりの親に、多量の金と引き換えに、政府に売られた事に。


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