されど暉の加護は、変わらず我に在る
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──罪の子。
背徳と歓喜、罪と善。悪魔に捧げる贄。

贄だ。大事な供物だ。我等が神に捧げる忌むべき、愛すべきモノだ。

こそりこそりと、それは昔から囁かれた。

…気付かないと思っているのか。
皆が皆、貼り付けたような笑顔で、何も知らなくてよいとばかりに全てを取り上げる。
言葉も教わらず、文字も見せず、ただただ生き長らえさせる。そして殺すのだろう。
神(詳しくは知らないが)とやらに背き、悪魔(神)を讃え、躊躇いなく人を殺せる狂信者達は。ここは、そういう村だ。つまりはキチガイしかいない。

我が相手でなければ、それは上手くいったのだろう。そう思う。

生まれながらに知性があり、記憶があり、既に三度、「生」を得た我でなければ。


小さな村だ。人口も少ない。潮の香りがして、クイーンズイングリッシュを話す。新聞などを見かけたことはないが、閉じ込められている部屋の窓は粗悪ながらも玻璃…ガラスであり、外には時折絡繰がある。
最早百年を超える過去の記憶から、知識を引っ張り出す。
訛りがあるとはいえ、あれは間違いなくクイーンズイングリッシュ。この世界を過去の世界と似通っていると仮定するならば、生まれたのはイギリス圏なのだろう。あの絡繰の発展度では、産業革命からそう経ってはいないと思われる。

しかし、それだけだ。
七年、この村で情報を集め続けて、これだけ。常に誰かしらが我を見張る為に、碌に動けもしない。
此処が正確にはどこなのかも、いつなのかも、世界の情勢も何も分からない。もしかすると、言語が英語なだけの、全く想像もしない別世界かもしれない。
まぁ、狂信者の集団だ。隠れる為にはそれだけ執心しているのだろう。


さて、問題は明日だ。
明日で我が生まれて七年になるらしい。そして明日、殺される。奴等の予定では。
無論、斯様な下らぬ茶番に沿う気はない。どうせ悪魔なぞおらぬ。最も気が緩む儀式の瞬間に、行動を起こす。
そうでもしなければ、この脆弱な体躯ではあまり手立てがない。最悪、刀剣男士達に人殺しをさせるくらいしか方法が無いが、それは避けたい故に。
結局外の様子が分からぬままであるのは痛手であるが、まあいい。生きていればどうとでもなるのだから。


◆◆◆


「おお、我等が悪しき神よ!」
長々と、この村の纏め役のような位置にいる男が声を上げている
眼下に見える者共が、皆々揃って眸を喜悦に潤ませ、我を見上げていた。

今こそ好機。


轟。炎の婆娑羅で己の身を包む。縛め(いましめ)が燃え落ちた。
ちらりと下を見遣れば、阿呆のように目を見開く者共。ひどく愉快だ。これでもう、我慢は必要無い。。
カッ。
光の婆娑羅を放つ。まるで小さな日輪の如く。目潰しのためだ。もしかすると失明した者も多いやも知れぬが、知ったことではない。

さあ、この隙に金と食料と船か馬を奪って逃げよう。そう思い踵を返した時だった。

ドドドドドッ。
突然に発砲音が鳴り響いた。
それも一度ではない。大砲に匹敵するような重い音が幾度も。
村のあちこちが倒壊し、燃える。
何故だ、目視できる距離に軍艦は無い。そもそも、あの家屋の倒壊の仕方はまるで、……空から撃たれたか!
元就がばっと空を見上げる。
此処は村の中央の広場だった。
そして頭上には、醜悪なナニカが在った。

「───何だ、あれは」
おぞましい。悼ましくて、悲しい。憎悪と悲哀、悔恨と懺悔、狂喜と狂気。血の臭い。

前の生にて高い霊力を持ち、日輪の加護を受け、審神者という特殊な職に(不本意ながら)就いていたからこそ解る。解ってしまう。

あれは、化け物だ。

何をしたかは分からないが、あれの材料は魂だ。人間の魂。しかもそれはきっと、悲劇に塗れている。

ドパンッ。
今度は分かった。ソレは広場のすぐ近くに撃ち込まれた。
地面に黒い五芒星が浮き上がる。

「!?」
黒い五芒星。それが地面を伝い、人間をも侵食していく。そしてとうとう、全身まで広がって………男は崩れた。一握りの灰と衣服を残して、跡形も無く。

危険だ。あれは世の理を外れている。
我とてあの弾に当たれば恐らくは。

しかし。
ここであんなモノに討たれる気は無い。
この我を殺すというならば、返り討ちにしてくれよう。

あれは敵。斃すべき敵。
婆娑羅が漲る。霊力が溢れる。日輪が、力を貸してくださるのが判る。

さあ放とう、そんな時だ。
キィィィィン。
するりと、何かが元就の体内に飛び込んだ。
「ぐっ!?」

熱い。体が内側から灼かれるようだ。血が沸騰する。体が、………■■■■■られる。

「参(からすき)の星よ、我が紋よっ!!」

そんなことはさせぬ、赦さぬ。

ぶわり。元就を中心に、一文字三ツ星が浮き上がる。



「あああああああああっ!!」



暉が、溢れた。


バシュッ。
光を浴びて、奇怪なナニカが蒸発したように消滅した。

「っ、…はっ、」

ぐるぐると、体の中を不快感が這いずり回る。

「昏黒に、射せ、…日精之、摩尼…!」
我が身を照らしたまえ、日輪よ。この異物をどうか、祓いたまえ。


「授かり手、『燦』」



空から降る光が一際強く輝き、元就を包み込む。
己の内から不快感が無くなるのを感じながら、元就は意識を途絶えさせた。



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オリジナル技登場。この技の存在は前から決まってたが、一番乗りがまさかのここ。
詳細はそのうち出ます。それまで秘密です。


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