ハロウィン
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バタバタと、廊下を元気良く(良過ぎるくらいだ)駆ける音がする。

「お早うございまする、毛利殿!」
「Hey!毛利、Good morning!」


全く、朝早くから騒がしい。
そう思いながら、元就は読んでいた書物から顔を上げた。



「……。………貴様ら。まさかその格好で登校してきたわけではあるまいな」

「That's right!cuteだろ?」


阿呆だ。阿呆が此処におる。
この高校、婆娑羅高校は、他の高校と比較してもいろいろと自由が利く。
それは服装に関してもそうなのだが。

「今日が何の日だか知ってんだろ?Trick or Treat!」
「とりっくおあとりーとでござる!」

だかまさか、蒼紅がそれぞれ、猫と犬の耳と尾をつけて登校してくるとは思わなんだ。
そんなものをつけるのは最北端の女童だけで十分よ。
というか、cuteかどうかを我に聞かれても困る。
見よ。先日、己は腐女子なる者だとか公言しておった女と他何人かがきらきら……いや、ギラギラとした目で此方を見ておる。
……貴様ら。
「けしからんもっとやれ!!」などと意味の解らぬことを言ってるんじゃねぇ!
やべ、キャラ崩壊。

これ以上視界に入れたくなくて女共からすっと目を逸らした。
あれは視界の暴力だ。
自分の中の何か大切なモノが失われていく気がする。

すると、目を逸らした先でクラスメイト(男)と目が合った。
「…(グッ!)」

貴 様 も か !!

何が『グッ!』だ!!親指立てるんじゃねぇよ!
我は女だわ!
三度の転生(現代→戦国→今)でこのかた男に生まれたことは無いわ!!

「………毛利殿?いかがされましたか」

……危なかった。
キャラ崩壊したまま戻らなくなるところであった。

小さく咳払いをして平静を取り戻す。

「いや、何もない。菓子ならくれてやる故、さっさと保護者の下へ帰るがよい」

そう言って二つ、鞄から菓子を入れた袋を取り出した。
朝登校する直前に気づいて念のためと持って来たのが役に立った。

「Thank You,毛利!」
「おおっ、かたじけない!」

保護者という単語はスルーか。そうか。

喜び勇んで保護者の下へ駆け寄る蒼紅はまるで本物の犬猫のようであった。



「お」

蒼紅が去り漸く静かになったかと思うたが、それも束の間であったようだ。

「よぉ、毛利。相変わらず来るの早ぇな」

鬼若子が来た。間違えた。馬鹿が来た。

「いやいやいやっ!?なんでわざわざ訂正したんだよっ!?合ってるだろ、鬼若子で!」

む?我としたことが、うっかり本音を洩らしてしまった。

「それも聞こえてるからな!?」


馬鹿鬼の言うことなどスルー一択に決まっておる。


「して、何用か長曾我部」

「ああ、そういや毛利。トリックオアトリート?」

何故疑問形。
そして単純細胞。


まぁ良い。

「ほれ。貴様にやろう」

放ったのは、蒼紅にやったものと同じ、菓子の入った袋。

「うぇっ!?マジか!!サンキュー、毛利」

いやー、こんなにあっさり貰えるとは思ってなかったぜ。

そう溢す元親の脇で、元就は怪しく口の端を上げた。



「 Trick or Treat 」




「………へ?」
面白いように長曾我部が固まる。


「Trick or Treatだ、馬鹿鬼。さっさと菓子を差し出すがよい」


「…あ゛ー……っと、…その………あ゛ー…いや…、」
菓子を持ってきていないのであろう。
目線をあちらこちらへ移動させながら狼狽える長曾我部。


全て我が策の内よ。←


「ふん、我には請うておいて、己は持ってきてすらおらぬか。ならば対価を貰うとしよう。我の奴隷となるがよいわ」

「なんでだよ!?普通いたずらだろ!!」

「菓子を忘れた貴様が悪い」



「なんつーか、仮にその条件呑んでもいつもと大して変わらない気が……。」



流石はKYといったところか。
いつの間にか近くに来ていた前田が、無邪気な口調で馬鹿鬼に止めを刺した。

「おはよう、毛利。さっそくだけど、トリックオアトリート」

キノコを生やしてぶつぶつ言い始めた長曾我部をいっそ清々しいほどにスルーした、原因こと前田が話しかけてくる。

因みに、こやつの机の上は既に菓子で溢れている。

「…必要か?」

思わず洩らした言葉に、返ってきたのは苦笑であった。

「いやぁさぁ。女の子たちが、ね……」


うん、ギラギラしておるな。
無言の圧力をひしひしと感じる。

「…女子と仲良くなりすぎるのも考え物だな」
「この針のむしろ状態は流石に勘弁かな……」

前田に菓子をやったところで、HRが始まった。

◆◆◆




あの後も、押し掛けては菓子をねだる元戦国武将共に菓子をくれてやった。

保護者や女子共に子供たち、市と浅井は珍しくすれ違うこともなくピンクのオーラを振り撒きつつやって来た。末永く爆発してろ。


あと、魔王が金平糖を持ち歩き、生徒にあげようとしては恐怖から逃げられしょんぼりするという図を見た。
シュールであった。


そんな感じで過ごして今は放課後。
帰る支度をしているところで背後から声がかかった。

「ふむ。Trick or Treat、であったか?貰いに参ったぞ、我が同胞よ」


振り向けばいつも通りの包帯姿。
前世のように浮けばよいのに(婆娑羅は健在)、わざわざ車椅子に乗っている。


「大谷か……。貴様にやる菓子は無い」

「ならば『いたずら』か?」

「と言いたいところだが、貴様の悪質な『悪戯』とやらに付き合う気はない。持って行くがよい」

「ヒヒッ。ほう、まだ残っておるのか。いったい如何程持って来た?ご苦労なことよなァ」
今日一日武将共がこぞってぬしに集りに来たらしいが?

そう続ける大谷に、何処から聞いたのか物申したくなったが、取り敢えずやることがあるので無視した。


漸く荷物を詰め終えたところで大谷を一瞥する。

「貴様は相も変わらずまるきりミイラ男だな」

「仕方のないことよ。我の皮膚は日光に弱い故なぁ」

「………そういえばそうであったな。ミイラ男だけでは飽きたらず、吸血鬼までやるか」

大谷は生まれつき皮膚が弱く、乾燥はおろか、湿気や日光も天敵だという。


「ヒヒッ。それはよい、よい」


何が良いのかは知らぬが、大谷は特有のひきつった笑いを発した。

「まぁ我にはどうでもよい。それよりも大谷。Trick or Treat、だ」

「嗚呼、左様、さよう。ぬしと我らで食そうと羊羮を持ってきておる。我の教室にある故、来ぬか」

羊羮か。大谷の出す甘味は美味い。
「ふむ、では行くか」





大谷と竹中、豊臣に石田。徳川と本田と共に羊羮を食す。
若干名明らかに年齢がアレなのがいるが、そこはいつも通りに流せば良いのだ。

やはり大谷の買い付けてくる菓子は美味い。


羊羮を食べ終えた後、その場におる者共に菓子を配った。
…………が。誰か忘れておるような気がする。


誰であったかと悩んでいると、騒々しい足音と共に、扉がやはり騒々しく開けられる。


「刑部ーーー!!」


何故かボロボロな黒田が立っていた。
どうせまた大谷に何か無理難題でも押し付けられたのであろう。


……あぁ、誰を忘れておったかと思うたが、黒田であったか。
思い出さずともよかったか?←
どうせやっても大谷と石田に奪われるのが関の山よ。


その後予想通り、黒田に菓子を放った直後、大谷が婆娑羅で奪っていった。



「なぜじゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


夕暮れに染まる校舎に、黒田の叫びが響き渡った。


(その後、なぜじゃぁと叫びながら泣く黒田(貴様本当に高校生か?)にドン引…シュール…哀r……ドン引きして余った菓子をやった。)


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