外の世界
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結局、途中から鬼の旦那まで参加してみーんなでお喋り。

俺様?断ったよ、もちろん。
強制的に参加させられそうにはなったけど。

旦那にそろそろお腹減ったんじゃない?って尋ねたら丁度良くお腹鳴ってさ。

最早朝じゃなかったけど朝餉を食べたよ。


旦那があんまりにも警戒心無いからさー、気づかれないように見張ってさ。

毒を使ってる様子は無かったけど、使ってる道具は見たことも無いような奇妙な物がいっぱい。
俺様だけじゃ使い方も使い道も見当がつかないようなのが、さ。
ま、ほら、俺様優秀だし?女が使ってるの見れば原理は分からなくても理解はできるから問題はそんなに大きくないけど。
………ほらね?俺って優秀な忍なんだよ?戦忍なんだよ?もっと給料高くても良いと思うんだ。団子なんて普通作らないと思うんだ。ねえ、どう思う?……って誰に言ってるんだろうね。まぁいいや。



いやホント、さっき説明された水道とかにも驚いたけど、厨も時代が変われば変わるもんだねぇ。

お米を勝手に炊いてくれる絡繰だとか簡単に火を付けられる絡繰だとか。

あれ何さ!超便利!!れいぞうことかでんしれんじとか、俺様も欲しい。



…って違う!!

何あの赤茶色のドロドロ!?
一体俺様達に何食わせる気!?
流石にあんな堂々と毒盛る馬鹿はいないと思うから料理だと思うんだけど……豆腐入れた!?

やっぱりあれ料理なの!?





結果。
出来上がったあれは毒は入ってなかったし、一応料理だった。
食べられないわけじゃなかったけど…だいぶ味が濃かったかな。
たしか『まぁぼお豆腐』って言ってたけど、変わった料理もあるもんだねぇ。
もっと薄味にすれば、もうちょい美味しくなるんだろうなとは思ったけれど。







午後になった。
やっぱり暇だ。

旦那達はだらだらと思い思いに床や椅子に座って女と話してる。
そのうち女の取り合いみたくなっていくのが、まるで面白くもない三文芝居みたいだった。
特に女の言動がなんかなぁ。わざとらしいっていうか、ブッてるっていうか、なんか違和感がある。どう動けば効果的か知ってるみたいな?

あの女、本当に俺様達が来た理由知らないのかね。





「…ね、愛ちゃん!俺様、先の世ってどんなところなのか見たいなぁ。窓から見るだけでも、俺様達がいた所とすごく変わってるし。外に出る用事とかなぁい?」

このままじゃいつまでもこの芝居が続きそうだ。
外も見た限り、むしろ俺の知らないモノの方が多いようだし。

毛利の旦那は何考えてたのか知らないけど、俺様一人でいきなり外に出るのは下策だろ?

精々情報収集に勤しみますかねー。
使えるモノは何でも使わなきゃ。
幸いあんまり頭良くはなさそうだし、あんた、真田の旦那(と俺様)が帰る為に最大限利用させてもらうよ。



帰る為の第一歩としてちょっと笑顔で話しかけてみれば、俺様の要求に嬉々として目を輝かせる女。

考えなしなのかなんなのか、今すぐ行こうと言い出した。
俺様的には大歓迎だけど、何しに出かけるつもりなんだろうかね。

そして残念なことに、うっすら予想していたけれど、女が行くなら俺も行く!なんて言い出したヤツが多数。てか全員。

俺は決定として、できれば旦那には留守番していてほしい。

残して行くのも不安だけど、(大変遺憾ながら)今、未知なモノだらけの外に出ても旦那を守りきれるか判らないし。
この家ならまだ罠とか毒とかは見つからなかったし、おとなしくしていてくれれば外よりは安全だと思うしね。おとなしくしていてくれれば。

「さっき服買ってきたもんねぇ!!みんなで行っちゃおっか?」

あ゛ー。なんとなく言うと思った。

でもさ、全員で行ったらろくなことにならない気がするんだわ。
俺様でさえもお手上げな絡繰に興奮して叫ぶ旦那とか壊す鬼の旦那とかが目に浮かぶ。
あと迷子とか。
こんな場所で旦那とはぐれるとか笑えない。


とりあえず、全員で行くとか馬鹿なことは断固拒否しなきゃ、ねぇ。はぁ。






結局、行くことに決まったのは俺様と前田の風来坊、竜の旦那になった。
じゃんけんとかいうので決めた。
纏めるのに苦労して、そんな簡単なのがあるなら早くだせよとか思った俺はきっと悪くない。

家出る前に武器手放せとか馬鹿なこと言われたけど、従うわけがない。
理由はそれなりにあるらしいけど、本当かとかわからないし。
旦那の手前、仕方なく、仕方なーく半分くらいは出したけどさ。
他の旦那達が多少渋ってはいたものの、ほいほいと従ったことが衝撃だったね。



外に出た。

さりげなく女の隣に二人を押し付けて、半歩後ろから女に着いて行く。


朝方外に出た時も思ったけど、空気が臭い。
鼻につく妙な匂いは、この時代だと普通らしい。
車とかいう鉄の塊が通りすぎた時が特に臭かった。

驚く俺達を見て笑う女が性格も悪いってよく分かったよ。
知ってるんなら先に教えろって話だよね。
あれ、下手したら怪我じゃ済まないでしょ。馬より速くて硬いとか。あの女、ホント何考えてんの?それで笑うとか気違いにしか思えないんだけど。

ホント、皆あんなのの何処が良いのかねぇ?
やっぱり化かされてる可能性が高いよね。他にもなんか隠してそうだし。



まぁ今解らないことは仕方ないか。
こんだけ色々ありゃ諦めもつくってーの。
とりあえず情報収集っとね。


「ねぇ、あの空を走ってる黒い線って何?」



内心を隠して、女に明るく声を掛けた。


◆◆◆


何をしに出かけるとか一切聞いてなかったけど、どうやら食料を買うらしい。
食べたいのある?とか聞かれたけど、毒が入ってなくて不味くなけりゃなんでも良いよ。

んで、すーぱーとか言う四角い建物に辿り着いた。
扉が勝手に動いたのには驚いたね、そりゃもう。
気配もなかったのに向こう側が見える透明な扉がいきなり。
すーぱーの中は中で冷気がそこらから流れてくるし、なんか臭いし、人多いし煩いし。
軽ーく流したけど、俺様、このままいって神経持つかなー?
化かされてる奴らは能天気に女に引っ付いてるから楽だろうけどさ、俺様はそうじゃないワケ。
空気は臭いし汚いし。ご機嫌取りは面倒だし。考えることは一杯だし、帰る方法も探さなきゃいけないし、ねぇ。
大体俺様、戦忍なんですけど。
そりゃー俺様ってば凄い忍だからさ、潜入だって情報収集だってこなせるけどさ。
戦忍としては、危険分子はさっさと殺した方が早いって思うわけよ。
こりゃあ俺が耐えきれなくな(って女を殺)る前に解決しないとホントにやばいかも、ね。



ってこらそこ!鮮度悪い野菜ばっかり手にするんじゃない!!何アレ、ある意味才能?あんだけ山になってるのに鮮度悪いの選ぶとか!







見たこともない野菜も多かったけど、まぁ、とりあえず明らかに鮮度悪いのは竜の旦那と揃って断固拒否してやった。
完全に萎れてる野菜が新鮮なわけないでしょ。



野菜に肉、他にも白米とか卵とか、高級品を大量に。
気軽にホイホイ籠に入れててくもんだから驚いたよ。
竜の旦那が尋ねてたけど、先の世ってんのは本当に食べ物が豊かなんだねぇ。
主食にできるほど安いなんてさ。

肉やら魚やら、はたまた南蛮の食材や季節の違う野菜やら。一所(ひとところ)にこんな大量に売ってるとか信じがたいけど、女の話を聞く限り、大将と旦那が天下を取った後、こんな平和な世が訪れるってことだよね。
俺達がいた時代じゃあ考えられないよ。自分の目で見て漸く受け入れられるような、夢みたいな話だ。
臭い空気は御免だけど、飢えないってんのなら良いことだね。
戻ったら、こんな太平の世にできるよう俺達も頑張らなきゃ。旦那もこれ見て正気に返ってくれたら良いんだけどなぁ。二人の様子を見る限り可能性は低そうだ。



一周ぐるっと回って、買い物を終了する。
びにーる袋とか言う白い不思議な袋に買った食材を詰めて、帰路に着いた。





旦那の居る家に戻ったのは、太陽の位置からして大体あと半刻で申の刻になるかなという頃だった。

旦那の腹が激しく自己主張してた。

「うるせぇ!shout up!!その腹黙らせろ!!」
「無理でござるっ!」

とりあえず仕方ないから、仕方ないから!夕餉前だけど、買ってきた甘味(毒見済み)を渡した。

「美味でござるうぅぅ!!」
「うるせぇ!!」

結局うるさいことに変わりはなかったらしい。

夕餉は『親子丼』。卵と鶏の肉を贅沢に使ったものだった。
あんなに味濃くなけりゃもう少し美味かっただろうにと思った。原料はあんな高級品なのに。
全部台無しにするくらい、かなりしょっぱかったよ。
ちょっと、あの女の味覚疑うんだけど。それとも何?未来の人間の味覚って、あの味で正常なの?

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料理は得意ではなかった模様。

8/8
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