惑い鬼と疑心猿
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まだ夜も明けねぇような夜中。


「―――用がそれだけならば我は行く。貴様が我に言葉で勝てぬことなど自明の理であろうに」

引き止めようとして言葉を探している間に、毛利は俺に背を向けた。


「では、な。せいぜいあの女の機嫌でもとっておくが良い」

その言葉に何かが含まれている気がして歩き出した毛利を追ったが、いつの間にか撒かれっちまったみてぇだ。
なんだかもやもやする。
これは漠然とした不安だ。だが何故なのか、何に対してなのか、わからない。

仕方ねぇ。愛んとこに戻るか。
考えてもどうにも出口が見当たらないから、そう思って後ろを振り返った。


………………。



………帰り道はどっちだ?



どっちを向いても灰色の細長い何かが空に向かって伸びていて、土じゃねぇ固くて黒い地面、灰色の石垣、今まで見たこともなかった妙な家が建ち並んでいて。
全部が全部似たように見えて、余計にもと来た道が判らなくなる。


………やべぇ。
俺どっから来たっけか。
こんなとこ毛利に見られたら哂われるに決まってる。
きっと氷の面でまさに氷みてぇな嘲笑される。自分の想像なのになんかイラっとした。

そういやアイツ、こんなとこに一人で大丈夫なのか?やたらずかずか歩いてたが。
っと、あんなヤツより今は俺だ。
仮にも詭計知将だの謀神だの仰々しく呼ばれてる野郎だし。大丈夫だろ、きっと。




結局猿飛が屋根伝って迎えに来てくれるまで俺は一人歩き続けた。


◆◆◆


部屋の中を一見ぼおっと眺め、実際は細かく観察してる。
天井の白いのが光ったのには驚いたけど、よく見れば背の高い椅子や机、床の敷物なんかも随分と手が込んでいる。
外が見える透明な板。あれはきっと玻璃だろう。こんなにも透明で大きくて大きさも厚さも揃っているヤツなんて初めて見たよ。
他にも見たことも無いのもこの部屋だけでかなりあるし、一体この家はどの位裕福なんだろうか。

そんな風に観察していたけど、視界の隅に入れていた女が向こうでそわそわしていてうっとおしい。
何?出て行った二人が気になるって?
さてねぇ。知らないよ。

まぁ、気にならないって言ったら嘘になるけれど。

まったく、毛利の旦那と長曾我部の旦那は何処まで行ったんだろうね。
もう感覚的に四半時も経つっていうのに、まーだ帰って来ないし。
いつの間にか風魔も居なくなってるし。まぁ俺様には関係ないけどさ。

真田の旦那さえ無事なら。


でもまあ、まさか、毛利の旦那がこの状況でこの家を出て行くとは思わなかったな。
今の状況が詳しく解るまではこの女を利用すると思ったんだけど。
何かお得意の策謀でも閃いたのかしらねぇ。


俺様?信用してるワケないじゃん。


こんな怪しい女。

だってさ、空の色からして夜明けまであと一刻はありそうな時間帯でさ、自称起きたばっかな割には意識が最初からはっきりしてるし、奇妙な服もさ、寝るだけにしては過美だし。おかしいじゃん。まぁソレが普通っていう可能性もあるけど。

他の旦那達がどう考えているかは知らないけど、俺は怪しいと思うね。




え?二人が戻って来ないから迎えに行ってほしい?
あんたの言うことは聞きたくないんだけど。
てか風魔に気づいてなくない?この女。


えー、何。旦那も?

仕方ないなぁ。
分かりました、分かりましたよっと。

女だけならいざ知らず、真田の旦那にお願いされちゃあねぇ?

行ってきますって。
なんか長曽我部の旦那、毛利の旦那に軽くあしらわれていそうだよね。それで撒かれて、道に迷ってそう。


他の二人が見つからなくても怒らないでよ、旦那?


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