前世=今世
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「さて、と。風魔。あの男共の着物を幻覚で我らに着せよ。行くぞ」

「(こくり)」


日が昇り数刻。道行く人の数も増えてきたところで、風魔を連れて元就も行動を開始する。

看板やそこらの地図を見ながら初めに向かったのは宝石店。

「?」

「不測の事態に対応できるよう、幾ばくかは常に懐に入っておる」

流石にこのような事態は予測していなかったがな。

続けてそう小さく呟いて、看板の地図を眺める。
現在地からは少し遠いようだ。



暫く歩いて漸く目的の店を見つける。


こちらでの金銀の価値がいまいち解らぬが、純度は高いので、かなりの額をふっかけて笑顔でごり押しした。

風魔の口許がひきつっているのは無視よ。

我の丁寧語にか、笑顔にか。おそらく両方であろうな。ゴリ押し具合にかもしれない。


こうして見ると、風魔も思ったよりも表情を変える。
(※常識を遥か遠くに吹っ飛ばすようなことばかり起こっているからである)


次いで入るのは近くの質屋。
金銀を入れていた巾着や根付、無くしても支障の出ない物を幾らか換金する。
どれも年代物だし質も良いため、中々の値段になった。



これで先立つ物はある程度手に入れた。

ならば次は何をすべきか。



『……ここは?』
「ネット喫茶ぞ」
どーん。
情報収集は基本中の基本。
特にこの時代、証明書とか諸々が無いと不便だしね。
折角風魔がいることだし、保険証と運転免許あたりの見本を見せておこうと思うのだ。それで幻覚でダミーを提示すればかなり楽になる。渡しただけで確認した気になるような幻覚も掛けさせる。これで大体は誤魔化せるはずだ。



調べてわかったことは、この世界が前世とほぼ同じであること。前世の自分がいた町も意外と近くに存在していて、なんか微妙な気分になった。
運転免許と保険証に関しては、写真の部分は我に、名前は前世の物に、生年月日などは適当に操作した幻覚を出せるようにさせた。
これで色々とできるようになる。





次にやって来たのは不動産屋。
我らが住むのだ。アパート等では色々と不便であろう。
というか嫌だ。


「近くに広めの一軒家はないだろうか。あまり周囲に建物が無い場所が良いのだが」

忘れておったが現金を持っておるのは当然風魔よ。

「いらっしゃい、お客さん。引っ越して来たのかい?」

「そのようなものだ」


そうだなぁ。
店主は呟きながら幾つかの書類を棚から取り出し、元就に手渡した。

「こんなんなんかはどうだい」

そのうちの一枚が元就の目に止まる。

「これは…」
「ん?どれだい?…って悪い、こりゃあ間違いだ。曰く付きの家でさ。なんでも幽霊がでるらしい」

ほう。物件自体はとても良いのだが。安いし。
風魔に目を遣ると、『主に任せる』と返ってきた。

ならば良いか。幽霊なんぞ信じてはおらぬし、我にはいざとなれば日輪の加護がある。
日輪万歳。

「それで良い」

「ええっ!?本気かい、お客さん!?」

「良い。現金で一括で支払おう。…風魔」

「(こくり)」

差し出した紙袋の中の大金を見て、店主は卒倒しそうになっていた。

「……死んだばあ様に会った気がする」

つまりは死にかけたわけか。それはすまなんだ。

「本当にいいんだな?んじゃあこの書類にサインをくれ」

サイン…。
おっと危ない。達筆で毛利元就と書く所だった。幻覚の免許証も前世の名前で作ったのだし、間違えぬようにせねば。

「どれ…って、寿松誇って本名かい!?」
前世の名であるし、本名ではあるが。

「半年前に殺された女の子も寿松誇っていうんだよ」

その言葉に、心臓がどくりと音を立てた。

「……もう少し詳しく聞いても良いか?」

「結構有名になったんだが、知らないのか?」

落ち着いて、平静を装う。

「ああ、数年ほど外国にいた故、知らぬのだ。友人に同じ名がおる。もしかしたらそやつかも知れぬ」
やばい。元就口調出たよ。全然平静装れてないよ。怪しまれなければいいけど。てか心の中もテンパってるよ。


曰く、その少女は五月××日の下校時に刺されたらしく、次の日の早朝、死体が見つかったらしい。
曰く、黒い長髪の、六天高校の生徒だったらしい。
………完全に我じゃん。
日時も一致してるし。他の特徴も一致してるし。

「…そうか。やはりその子は私の友人のようだ。教えてくれ、感謝する」

動揺したのが心配そうにでも映ったのだろう。良いってことよ!なんていつの時代か訊ねたくなるようなセリフで涙ぐむ店主に幻覚を掛け、その後の取引を終える。
外道?何を言う。ただ単にタイミングの問題ぞ。幻覚とて怪しまれる時は怪しまれる。使えるモノは使わねば。

続いて銀行に向かう。不動産と順番が前後したが、あまりの大金を持っていけば疑われる。まぁだから個人で経営していた不動産に行ったのだが。
銀行は詰めている人も多く、監視体制も厳しいからハードルが高い。
風魔に不自然な動きをしないよう注意しつつ、幻覚を何度か使って口座を二つ作った。
その場で所持金の幾らかを預け、足早に外に出る。

ああ、疲れた。文明の利器はやはり恐い。風魔に素早く指示を出すためにも、気を張っていたからな。
それにしても風魔GJ。幻覚の使い勝手が良過ぎる。着いて来てくれてよかった。
「貴様がいて助かったぞ、風魔」
「!!(ぱあぁぁ)」
何こいつ可愛い。


◆◆◆



さて。
今日からもう既に、買った家には入れるとのことで。
口座も手に入れたことだし、不動産屋で紹介された電力会社、水道会社と(色々誤魔化しつつ)手早く契約を結んでしまう。明日の午後から使えるようになるそうだ。


家具なんかは一応備え付けの物があるそうだが、何か雑貨などを買うにも一度家を見る必要があるだろう。
風魔と共に、地図を片手に家へ向かう。


そして。

件の我が購入した家へと着いたのだが。

「…」

「うむ、解っておる。……明らかに人の気配がするな」


…地下か、複数の気配がする。


「風魔、捕らえよ。この世界は刃傷沙汰に煩い。傷つけずに、生け捕りにせよ」

「(こくり)」

すっと、漆黒の羽を残して風魔が目の前から消えた。

大方泥棒か、指名手配犯か。幽霊の噂を流しておけば、確かに隠れ家にはうってつけであろう。
が、ここはもう我等の家。さっさと退場してもらおうか。

風魔が置いていった金の入った紙袋を持って、音を立てずに家へと入った。







紙袋を居間に置いてから、ゆったりと家の奥へと進む。
気配が一番近いのは、家の一番奥。突き当たりの部屋の脇の壁の中だ。
壁を調べてみれば、床すれすれの位置に隙間があった。
だが奥に何か仕掛けがあるというわけでもなく。

ではどう開けるのか。
答えは上に持ち上げるだった。
え。それあり?
だが意外と軽かった。
(※彼女が戦国武将だからである。実際はかなり重い)

そのまま壁の奥の階段を降りて行けば、扉が見えた。
遠慮も躊躇もなく堂々と開け放つ。

目に映ったものは、風魔と床に伸びた男共だった。




拷も……我と風魔の手腕によって聞き出したこと。…拷問じゃないよ!あくまでO☆HA☆NA☆SI☆だよ!
予想通り、隠れておったのは指名手配犯であった。
そこそこでかい罪を起こしたらしい五人組だ。
まぁ我等とは比べるまでもない雑魚ではあるが。

情報は得たので、縛り上げてられている男共をもう一度失神させる。
幻覚による記憶の消去もオプションで☆
そうして出来上がったこれはとりあえず後程警察署へ突き出すとして。

まだ日が沈むまでは多少時間がある。
風魔の分身に男共の見張りを任せ、買物をしに再び外へ出た。


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ネカフェ!さーせんwなんか都合が良くて……。
各会社との契約はまあ、「あ、通じるの早いな」くらいで済ませていただけるとありがたいです。


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