其は現であるか
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これは、幻か、現か。
有り得ないと脳が否定する。
だが同時に、有り得ないことなどそうそう無いのだということも知っている。


「?どうした、毛利?」


もし、この獣が、真に我の知る生物であるならば。
長曾我部の言葉を素通りし、兵達に告げる。

「総員、持ち場へ戻れ。この獣は我が相手をする」

そう告げれば、兵達がざわめく。
「し、しかし元就様!危険です!」
そのような声も幾つか聞こえた。

「案ずるな。我には策がある。危険など無し。理解したならば、行け」

これ以上言を重ねれば、長曾我部の手前、どうなるかは想像がつくのだろう。
速やかに兵が散っていく。

兵達の心遣いに礼の一つも言いたいところだが、長曾我部の手前、氷と揶揄される無表情を動かすことはなかった。


◆◆◆


「おい、毛利。策ってなんだよ」
「居たのか、貴様」
「ひっでぇな、おい!」
この馬鹿は反応が愉快だと思う。


「で、策ってのはどんなだ?」
「策など無い」
が、考えはある。
そう続けようとしたのだが。
「はぁっ!?仮にも知将とか謀神とか呼ばれてんのにか!?お前から策取ったら何が残ん゛っ」
「黙れ、この乳首め!!」
「〜〜〜〜〜っ!!」

いらっと来た。すごくいらっと来た。
え、何コイツ。何でこんなに我を苛立たせる天才なの?
顔面に裏拳で済んだことにむしろ感謝しろ。



……落ち着け、我。


「策ではないが考えはある。貴様ごときが、口を慎め」
ホント、人の話を聞かないで批判するのは駄目だと思う。
我?最後まで聞いてから叩き潰す派です。
例外はあるがな。


「さて…」
顔を押さえて呻く阿呆に我の言葉は届いたのか。まぁ別に届かなくとも良いが。
阿呆は無視してアブソル(仮)に向き直る。

「我の記憶が正しければ、貴様は人の言葉を解せるはずだ。幾つか尋ねたいことがある。是ならば縦、否ならば横に首を振れ。解ったか?」


「……」
こくり。
僅かな間を開けたのち、アブソル(仮)は首を縦に振った。

「ならば一つ目だ。貴様はアブソルで合っておるか」

縦。

「何故己が此処にいるか、心当たりはあるか」

横。

「此処は貴様がいた場所とは違う。気づいているか」

「…」
縦。

「帰り方に見当はついているか」

横。


「……承知した。話によっては貴様の身の安全を保障しよう。もう少し詳しい話がしたい。着いて参れ」
くるりとアブソル(確定)に背を向けると、目の前に未だ踞る阿呆が見えた。

「…いつまでそうしている気だ、名折れの鬼が」
「だってお前、全力でやっただろ!?」
だってとか言うな、いい年の男が。

「喧しい。輪刀の錆にならなかったことにむしろ感謝せよ」
あんなこと言われたらいくら優しい我(←)でも怒るに決まっておろう。

「我には早急にせねばならぬことができた故、貴様に割く時間は無い。疾く帰り自国の被害でも調べるが良かろう」

おいお前。なんでそんな「あ、忘れてた」みたいな顔してんだ。
お前国主だろ。

「あ、あぁ!そういやそうだな。忘れてた!」
口で言いやがったよ、こいつ。
何故こんなのが国主なのだ。解せぬ。

「一段落したらまた来るぜ!」
「来るな。さっさと去ね」
むしろ逝け。


「元就様っ!!」
…せっかくこやつが帰るところであったのに。

「何だ」

「国内及び近隣諸国より、一人でに動く石や植物、見たこともない獣など、奇妙な生物が各地で目撃されたとの報告が上がっております!」


「…」
「…見たことのない獣…」
「…」
「…もしかしなくても、コイツもそうか?」

「………、はぁ。そうだ」
「で、毛利はコイツを知ってると」
面倒臭い匂いがする。

「…如何にも。仕方ない。予定を変更する。長曾我部、貴様も来い。我が知を無知な貴様にも分け与えてやろう。感謝するが良い」
「言い方がいちいちムカつくな、お前!」
煩い。てか貴様にその言葉、そのま返してくれるわ!

「そこの駒。使者に伝えよ。それらの多くは向こうから手を出すことは少ない。故に確認と報告を上げ、放っておけ。支度が整い次第、我が視察する。同様に忍を使い、安芸全土に触れを出せ」
「はっ」

部下が走って戻るのを見て、自分も歩き出す。
後ろをとてとてと着いてくるアブソルが可愛い。
どすどすと音を立てて追ってくる長曾我部は五月蝿い。



さて、どう説明するべきか。


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