最早最後は飲み会と化したクリスマス。それが終わればもうすぐそこに、一年の終わりが迫って来る。
しかしその前に、新年に相応しい環境にしなければ!そう、大掃除である。

女性陣が指揮をとるこの大掃除だが、屋敷が広い上に飲み会の次の日は男性陣が使い物にならないため、その翌日、つまり27〜29の実に三日を費やする。

その日は朝からドッタンバッタン。あちらこちらで声が行き交う。
そんな中で当然ではあるが戦力外通知を出された二歳児二人は、以前手に入れた小部屋にぽいぽいっと放られ、「おとなしくしててくださいね〜」という言葉と共に実質放置状態であった。
無論、時々代わる代わる誰かしらが様子を見に来るし、ご飯も忘れない。
ただ、周りが騒がしいのに自身は外に出られないリクオと常に誰かしら側にいるために気を抜けない花宮は、徐々にストレスが溜まっていく。


それはそう、最終的に悪戯というカタチで発現した。

戸を開けるともう一つ戸が。思いきりぶつかる。
戸を開けると大きな物が降ってくる。布団だった。
中に入ると二人がいない。驚いた拍子に膝かっくん。
中に入ると二人がいない。パチンコで首を飛ばされる。
中に入ろうと踏み出した瞬間にビー玉が。踏んで転ぶ。

主犯:花宮でお送りしたほんの一部である。しかし、リアル二歳児のくせに全力で悪戯して笑うリクオも結構アレだと思う。
ちなみに誰も来ない時間は二人でひたすら罠…ごほんっ…悪戯の作戦を考えていた。
花宮曰く、だって暇なんだもん!(最上級の笑顔)


果たして、三日掛けた大掃除が終了した時、二人の悪戯の犠牲になった者はどれだけいただろうか。
一つ言えるのは、けして少なくはなかったということだけである。



そんなわけで30日。この日は本家組含む家族でまったり(第三者視点)過ごした日であった。
花宮からしてみれば、文字通り一日中子供らしく笑っていなければいけない、軽い苦行の日であった。

そして来たるは一年の最後の日、大晦日。
つい数日前にも盛り上がったばかりなのに、この一年を振り返った後は忘年会と称した宴会が始まった。これが年が明ければそのまま新年会へ突入するのが見え見えである。


かくして、大掃除の成果があっというまに無に帰するようなどんちゃん騒ぎで以って、新しい年がやってきた。

因みに「一年の計は元旦にある」と言うだろうに、こんなんで大丈夫なのかよと新年早々皮肉った花宮がいる。


◆◆◆


代わる代わる、本家へと挨拶に来る傘下達。その波が漸く一度途絶えた夜、鯉伴が口を開いた。

「よし、家族水入らずで初詣行こうぜ!」

参加者は鯉伴、若菜、マコト、リクオのわずか四人。供の一人も連れず、まさに家族で出掛けようというのである。
無論、周囲は反対した。そりゃもう全力で。しかし鯉伴は頑として譲らず、挙句には若菜がのんびりと「楽しそうねぇ」などと言うため、幹部達がこっそり周囲に散開するという手段で妥協したらしい。
因みに祖父は既に出掛けた後のようで、見つからなかったそうだ。流石自由人。初代に関しては幹部達はもう諦めた。



カランコロン。下駄が鳴る。
若菜の腕の中にはマコト、鯉伴はリクオを、それぞれ抱えながら夜道を歩く。
少し離れた所には誰かしらがいるが、愛する妻と可愛い息子二人と特別な日に出歩くのも良いものだ。発端は単なる思いつきであるが、鯉伴は満足だった。

唯人(ただびと/一般人)に紛れて近所で一番参拝客の多い神社に足を向け、列に並ぶ。偶然出くわした土地神なんかにも挨拶をしつつ、驚く相手に軽く笑った。
マコトとリクオもどうやらまだ眠気は来ないようで、組の集まりとはまた違う賑やかさに、周囲をきょろきょろと見渡している。
その仕草は可愛いし、それを見て穏やかに笑う妻もまた可愛らしい。その様子を眺めては、鯉伴もまた笑みを零すのだ。


「砂糖吐きそう」
「お腹一杯です」
「俺、何やってんだろう……」
なお、我等が大将を護らんとし、その結果この桃色空間を直視してしまった勇者達は遠い目をして呟いたという。

若菜の腕から逃れられない花宮もまた、至近距離から放たれるリア充オーラに鳥肌を抑えるのに必死であったとか。因みに、あちらこちらに目を遣っていたのは桃色空間を直視しないための対策である。


はてさて、参拝の列が進み、四人の番になった。花宮とリクオも降ろされて、四人で柏手を打つ。
今年も良い年になりますようにと願う大人組の隣で、花宮は他人の不幸でメシウマできますようにと願っていた。この神社が祀るのは天照大御神のため奴良組とはなんら関係がないが、それにしても、バレないからといってそんなことを初詣で願うのもどうなのか。


「よし、屋台に行こう!マコトもリクオも泣いたりしなくておとなしく良い子だったからな。ご褒美に好きなの買ってやるぞー」
初詣を終えた後の第一声がこれである。
先程まで以上にテンションが高いのではないだろうか。リクオもそれを感じたのか、キャーと笑う。
ひょいと、人混みで逸れたらいけないと、元気に走って行きそうなリクオを若菜が抱え上げた。
「行きましょうか。リクオ、何食べたい?」
「んー、あれっ!!」
「綿飴?そうね、買おっか。とっても美味しいわよ」
「やったあ!」
きゃっきゃうふふと笑いながら綿飴の列に並ぶ二人を視界の端に入れつつ、鯉伴も花宮を抱き上げる。雑踏の中にいつまでも自分の短い足で立っていれば誰かしらにぶつかるのは確実なので、花宮もおとなしく鯉伴の腕の中に収まった。

「マコトは何食いたい?何でも買ってやるぞー?」
「カカオ100%チョコ」
しまったうっかり本音が。桃色空間+人混み+αで思ったよりも疲れているようだ。
鯉伴といえば、『え?何それ本気?本気!?』とばかりに顔が笑顔のまま固まっていた。
「え、マジ?カカオって50%くらいでも充分苦いよな?100%の味とか想像つかねぇんだけど。マコト本気か?ってかどこで憶えたそんな謎物体」
「……んーとね、てれび!!」
適当に誤魔化そう。
良い笑顔で花宮は笑って見せた。

「そうか…。残念だけどな、マコト。たぶんここにカカオ100%チョコは無い。ほ、ほら、別なのだったら買ってやるから、他に何か欲しいの無いか?」
幼心を傷つけないようにやんわりと言う鯉伴に、もともと話を逸らしたかった花宮も乗る。
「じゃあ、あれなにー?」
「あれはー…くじ引きだな」

やってみるか。
鯉伴はぬらりくらりと人混みを抜け、気付けば少し離れていたはずの屋台の前にいた二人。
花宮は、腐ってもぬらりひょんかと失礼な事を考えた。

「おう、オヤジ!くじ引き二回頼むぜ」
「おう!四百円だ!可愛い坊主だな、息子か?」
「ほらよ。ああ、俺の可愛い可愛い息子だよ!もう一人いるけどな」

口から砂糖と悪態吐くかと思った。
なんとか堪えた俺エライ。花宮は思った。

「ほーら、マコト!この箱の中から一個選んでいいぞ」
「はーい」

興味など欠片も無いが、適当に紙を一枚掴む。

「どうだ?いいの出たか?」

紙には六等と書かれていた。
この店は七等までしかないので、実質下から二番目である。

「どれどれ?お、六等か。んじゃあこれだな」

そう言って差し出された物。それは、……オタマジャクシからカエルに変態しかけているぬいぐるみであった。
何故そんな物を作ったのか。花宮の脳を持ってしても全く理解できない謎のチョイスである。前衛的過ぎる。

脚と尾が無駄に細かく作られているのに、顔だけデフォルメで、今すぐぶん殴りたくなるような憎たらしい顔をしていた。才能の無駄遣いも甚だしい。
何故かある眉毛と半目と三日月形の口が、言葉に表しきれない絶妙にゲスい笑顔を象っている。

花宮の受け取る手と作り笑顔が固まった。くじ屋の男がこれを笑顔で差し出せる意味が解らない。
鯉伴の感性はまともなようだ。隣で若干引いてる鯉伴に、花宮は初めて共感を覚えた気がした。

そうしている間にもグイグイとぬいぐるみを押し付けられる。仕方なく受け取った。

そして鯉伴を差し出した。

「え?あ、ああ、次は俺か」
動揺する鯉伴を見てメシウマ。
▼ 花宮 の HP が 少し 回復 した 。(気がする)

「んじゃ、…これで」
鯉伴が選んだくじは四等。
「ほおう。あんたはこいつだな」
そして差し出された物に、花宮の目が釘付けになった。

「な、なあオヤジ、こいつは……?」
「ああん?見て分かるだろ。カカオ100%チョコだよ」
*・゜゚・*:.。..。.:*・'(*゚▽゚*)'・*:.。. .。.:*・゜゚・*キター!!!!


花宮の中で、くじ屋のオヤジの評価がうなぎ登りになった瞬間だった。チョコに関してだけは。思わず顔文字になるほどに。だがしかし、変態蛙(間違ってはいない)、テメーは駄目だ。
一方で、ぬいぐるみといいゲテモノ揃いのくじ屋のオヤジに鯉伴はドン引きである。そして微かに花宮に対しても引いた。いつでも天使なマコトが、今までに見たことないくらい目を輝かせている。可愛い。めっちゃ可愛い。うちの子マジ天使。しかし対象がゲテモノである。え、でもやっぱりさっきの本気だったんだ。一体いつ出会い何処が気に入ったのだろうか。鯉伴にはちょっと理解できない。
どのみち鯉伴はそんなゲテモノは要らないのでマコトにあげた。とても可愛らしい満面の笑みでペロリと平らげていた。鯉伴は考えるのを止めた。喜んでくれるんだから良いじゃない!御礼にぬいぐるみをくれるそうだったが、丁重にお断りした。


◆◆◆


くじ屋から離れ、ぶらりと歩く。鳥居の側ほど明るくも騒がしくもないその道は、両脇に点々と並ぶ屋台にこれまた点々と客がいるだけだった。


「おーい、そこのお兄さん!ウチに寄ってかない?」

呼び止める声がする。きょろりと見渡すと少し先の屋台に手を振る人影が見えた。
「おう!俺を呼んだかい」
「そうそう、お兄さんさ。あれ、若く見えるのに子持ち?やるねぇ」

声を掛けた男。その奇抜な紫の髪は前髪が長く、目が隠れるほどだった。
「おいおい、あんたそれ前見えるのかい」
「ははっ、ご心配なく。それよりもさ、折角来たんだ、何か買ってかない?」
双方ノリがいいため、ぽんぽんと話が続く。
「ああ、そうだな。ここは何売ってんだ?」
「ここは俺らの手作りのモン売ってんの。木彫りの仏像、張子のお面、人形とか、ビーズストラップとか」
俺ら学生でさ、遊びに行きたいんだけど金無くてさー。助けると思って、お一ついかが?

「へー。本当にお前らが作ったのか?上手いじゃねえか」
「ありがと!」

「なんだ?客来たの、か………!?」

話していると裏から一人、赤毛の男が出て来た。

「お、あんたもここの作ったのか?」
「あ、ああ。俺はビーズストラップとかそこら辺の小物だよ。器用貧乏なもんでな」
「へぇ。いや、充分上手いと思うぜ」
「ありがとな」

鯉伴の興味が新しい店員に移ったのを横目に、花宮がすすっと屋台の端に寄る。
「おい原。なんで居んだよ」
「単純にお小遣い稼ぎだよん。ほら俺ら、戸籍も金も無いし。見た目こんなだし」
「他には」
「花宮の家族団欒()が見たかった!…あw」
しかしイイ笑顔とサムズアップである。親指を思い切り反対側に曲げてやった。


「ギブ!花宮ギブ!wwww……ちょっ、マジで!!」

小声で笑いながら悲鳴を上げるという無駄に器用な芸当をする原。
漸く放してもらった親指をさっと花宮から遠ざけた。

「あとアレなんだよ」
「商品のこと?本当に俺らが作ったんだよ」
なんたって自分の原型なワケですしおすし?自然と作り方が分かるんだよねー。ってかむしろ作られ方www?ザキはあれ、ただの器用貧乏。そっちのハンカチとかも作ってたけど。
なるほど、説明されれば確かに納得できるような気もする。
しかしこいつらのこのガタイと人相でチマチマとこんな物を作っているのかと思うと笑える。特に原。ザキ?あれは通常運転だろ。だってオカンだし。

「じゃあ、そこのハンカチと木のオモチャを貰おうかね。マコトは何が良い?」
原と話している間に鯉伴は買う物を決めたようだ。
「んーとねぇ、このお人形さん!」
尋ねられた花宮は適当に指差した先にあった人形を選ぶ。
「なんでそれにするんだ?お人形さんはもう持ってるんだろ?」
「だって、お人形さん一人じゃかわいそうだもん」
きゅるん。ぶりっ子炸裂。効果は抜群だ。鯉伴のハートに9999のダメージ。原の腹筋に9999のダメージ。二人は倒れた。まさに必殺。



そして漸く少し落ち着いた所で花宮のねだる人形も買い、二人は屋台を後にする。

向かう先は愛しい愛しいもう一人の息子と妻の所だ。
今日は四人で寝よう!
鯉伴はうきうきとした気分で可愛い息子を抱き上げた。





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