ぬらまこ 4



五人で輪を作って座り、これからのことを話し合う。
折角原の知識があるのだ。ただぼおっと日々を過ごすのはもったいないという総意に達した。

「そう!!目指すは!!原作を!!楽しく引っ掻き回す!!」
どーん!

「原テンションたけーなぁ」
「あーはいはいワロスワロス」
「それは何語だ……!?」

なんてグダグダ話してみたりして。
けれど茶番を終わらせるタイミングがやって来ないため、花宮がこの流れをぶった斬る。

「んじゃ、話せ」
「?何をだ?」
「これだからザキは。今夜は時間もそんなに無いし、今の段階でも使えそうな情報だけ先に知りたいってこと。でしょ?花宮」
「おう」
「ププーwザキのおバカーwww…そういう意味ね!オッケー!」
「おいこら原!絶対てめぇも分かってなかっただろ!!」
「wwwえっとねー、そうだなぁ。今から一番近い原作内容としては、たぶん花宮が四歳の時かな。ラスボス一歩手前の中ボスが花宮のお父さん殺すの」
「いきなり重いな!?」
「ふーん」
「花宮は軽いな。仮にも実の父親だろう?」
「俺がぽっと出のオヤジにそんな情湧くと思うか?」

「「「「思わない」」」」
「だろ?」

納得する面々。やはり花宮はブレない。

「あとはぁ、そうだなー。いつからかは具体的にはわかんないけど、幹部の一人が敵なんだよね」
「どいつだ?」
「えっとねー、三ツ目八面って名前だった気がする」
「あいつか。わかった、注意しておく」
「うん。因みにラスボス、山ン本五郎左衛門の一部だったりする」
「おい、ラスボスっておい。奴良組大丈夫かよ」
「漫画だと次は八歳かな。リクオが乗り損ねたバスが襲われて、バスに乗ってた子を助けるために一回妖怪化するの。でもその後は中学入るまで何も起こらないし、三代目にもならないって言う。あとパシリになる」
「最後wwパシリってなんだよ」
「その前の主人公的()行動が霞むな」
「結構間空くね」
「暇だな。てかあと十年以上も猫被りとかしたくないんだけど」

「仕方ないよ。だって中学入ってから主人公クンが百鬼夜行の頂点に立つまでの話だもん」

「ま、気を付けるべきなことは分かったし、いいんじゃねぇの。そこら辺の詳しいことはまた今度でも」
「じゃ、次はその四歳の時のことを詳しくだね」
「あいさー」

曰く、リクオと鯉伴の散歩の最中に起こるらしい。
曰く、子が出来なかった為に別れた前妻にそっくりな少女が現れるらしい。どうでもいい。
曰く、山吹の花を見てうっかり呟いた前妻の詩が切っ掛けだとか。
曰く、正体は前妻の魂ごと取り込んだ九尾の狐らしい。祖父と因縁があるらしいがどうでもいい。

「傍に物騒な名前の地蔵もいるけど、とりあえずこんな感じ。どうする?」
「何がだ?」
「ザキのにぶちん。鯉伴はこのままじゃ死ぬ事が決定済みなワケ。でも俺達はそれを知ってる。だから、鯉伴をこのまま生かすことも俺達はやろうと思えば出来るの」
「漫画の通りか、それを妨げるかだね」
「折角原作壊すんだから、鯉伴は生かしてもいいと思うなぁ」
「生かすメリットと死なすメリットはあるのか?」
「正直どっちでもいいな」
ヒト(半妖)一人の生死について話しているというのにこの淡白さである。
「死なすメリットは、ほぼ原作通りに進むだろうってこと。生かすメリットは、組の縮小が起こらない可能性。そしたらたぶん、三代目襲名はもっと余裕ができると思う」

三代目襲名しなくて済む。せっつかれなくて済む。いや襲名する気は更々無いが、鯉伴が死ななければ長男というだけで向けられる期待が原作より少なくなる。はず。
「生かす方向でいいんじゃね」
「了解」
「はいはーい」
「分かった」
「じゃあそういう事で」
正に鶴の一声である。





「あ、やば。そろそろ人来る」
廊下に潜ませていた人形が、若菜とその腕の中で眠るリクオがこちらに来るのを発見する。
「頃合いだな」
「思ったより時間取れたね」
「じゃあさっさと外出るか」

ここでグズグズしていると困るのは花宮であり、奴良組に目を付けられる可能性が出てくる四人である。

簡単な別れの挨拶を交わして、四人が庭へ出る。
「それじゃあ花宮、また今度」
「また来る。元気でな、花宮」
「人形、何かあったらいつでも連絡ちょうだいね」
「近いうちにまた会いたいな、花宮。元気で」

「てめぇらもな、なんて言うかよバァカ。せいぜいばれねぇように動けよ」

「ああ、それじゃあな。ーーールーラ!」
面を付け替えた古橋が呪文を唱える。
一瞬青い光に包まれて、四人の姿は花宮の前から掻き消えた。



◆◆◆

さて、そんな会話から三ヶ月。
定期的に連絡を取りながら花宮はすくすく()と成長した。子供の成長は早い。それは身体だけに当て嵌まるわけではなく、考え方などもそんな言葉で多少ズルしても誤魔化せるから楽だ。
因みに、この調子で身長185cmを越す事が目標なのは秘密である。

閑話休題。
ところで、今日はいったい何の日か。

「いいかー、マコト、リクオ!組の奴らを見つけたら、トリックオアトリートって言うんだぞ」
「といーっくおーといーと?」
「tri…とりっくおあとりーと、だよ、リクオ」
「とりっくおあとりーと!!」
そう、ハロウィンであった、のは先々月だ。
何故ケルトの盆を生粋の日本妖怪共がやるのかと、心の中で激しく突っ込んだのを残念ながら覚えている。
まあ、菓子を忘れた奴らには可愛い悪戯()を存分に仕掛けたが。

そして今日。そう、回想という名の逃避に走ったのは、またしてもムサイ男共や異形の奴らが嬉々として屋敷の一角にイルミネーションなどを飾り付けていたからだ。ハロウィンの時もそうだった。
そう、今日はクリスマス。
何故当日になってから飾り付けるのかとか訊きたいことはあるが、始めに言わせてほしい。

クリスマスって、どういう日なのか知ってる?

ケーキだとかクリスマスツリーだとか用意しているが、お前等は外国の聖人の存在をそもそも知ってんのかよバァカ!
日本人はあらゆる行事を魔改造してバカ騒ぎする性質(たち)だとどこかで見たが、日本産の妖怪にも共通するのかと一瞬悩んだ。一瞬だけ。そんなことに脳のキャパ使うのも馬鹿らしくなったからすぐに止めた。

このバカ騒ぎの首謀者は残念なことに血の繋がった父親らしく、呼び出された他の幹部の一部が疲れて萎れていた。げんなりというより萎れていると言った方がしっくり来る。哀れで笑える。
というか、そういうのを見つけてSAN値チェックしてないと俺が死ぬ。
構われて構われて揉みくちゃにされて、ストレスでも物理的にも死ぬ。

…おい原、てめぇさりげなく忍び込んでんじゃねぇよ。さては爆笑してるな?人形が無駄に細かく震えてんぞ。
そのまま笑い死にしろ。


出される食事はまだ二歳だから殆ど食えず、渡されるのはクソ甘ったるいケーキだ。こんな物よりカカオ100%チョコが食べたい。
…おい止めろ押し付けんなそんなに食えるかよいらねぇって言ってんだろ、この酔っ払いが!肉も寄越すな、そんなデカい塊が二歳児に食える訳ねぇだろ!!


弟と共にあっちこっちに抱え上げられ撫でられたらい回しにされ、かと思えば追い打ちに気持ち悪くなるほどケーキを押し付けられ。まさにアレだ、メリークルシミマスってヤツだな。前に古橋がボソッと言ってた。


ここにいる妖怪共全員纏めて地獄に落ちろ。

被った猫が剥がれかけ、思いっきり疲れたと周囲に無言で自己主張しながら、花宮は心中で呪詛を唱えた。







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