山本 2




「……ねー、木吉ってさー、バスケ嫌い?」
「は?」
「いきなりどうしたの、小太郎?」
「だってさぁー、木吉、いっつもバスケの前とか後とか、むすってしてない?」
「そぉ?あたしにはいつもと変わらないように見えたけど」
「そうだぞ?俺はバスケ好きだし、そんなむすっとした顔なんてしてたか?」
「んんー、顔じゃなくって、でもなんかこーむすっってしてる気がする」
「そりゃあれだろ。そいつが嫌いなのはバスケじゃなくて人間なんだよ。だからバスケしてる時以外そう見えるんだろ」
「……え?」
「あー!!なるほどー。じゃあオレ惜しい?惜しい?」
「あーはいはい惜しい惜しい」
「ちょっと待って!まこちゃんも小太郎もそれ本当!?」
「…、別に嫌いじゃないぞ?俺、友達百人作るのが夢だしな!」
「木吉、ウソついちゃいけないんだぞー」
「人間ってか、てめぇの場合バスケ以外の全部を拒絶してんだろ。そんな天然のふりしたってバレバレなんだよ」
「えっ?えっ?」
「…………なんでわかった」
「わっ!木吉顔怖ーい」
「俺の猫被りと同じ匂いがするし、ふとした瞬間に目が冷えきってる時がある。そっから注意して見ていきゃ分かんだろ」
「それまこちゃんだけよ」
「ま、なんでお前が人間嫌いなのかなんて興味がある訳でもないが、『無冠』とか言われて一括りにされた仲だ。お前のことが嫌いなヤツはここにはいないし、うっかり口滑らしても誰も聞いちゃいねーよ」
「あら、栄吉。牛丼食べ終わったの。でも、そうね。あたし達で良ければ話くらい聞くわよ。溜め込んでばかりじゃ体に悪いわ」




「つまり、お前には前世の記憶があって、この世界は前世で漫画だったと」
「………ああ」
「で、鉄平は本物の『木吉鉄平』の居場所を奪っちゃったと思っているわけね」「………ああ」
「へー!!そーなんだー」
「お前は何を聞いていたんだ」
「痛いっ!」
「話を聞いた限りじゃ、前世に未練があるってよりも成り代わったことの方が悩みの種な訳だな?」
「……………ああ」
「生まれっちまったもんは仕方ねーんじゃねーか?」
「もうっ!!栄吉ってばやっぱりデリカシーが無いわね!!こういうのは本人の受け取り方の問題なのよ」

「……そうだな。こんな話がある。作家や漫画家ってのは、寝てる間に異世界に行っているらしい。そして起きた時、無意識に引っ掛かってた異世界の夢を元に物語を作るんだそうだ」

「……つまり?」

「てめぇは前世の『原作』にばっか固執してるが、そもそも今俺達がいる此処がオリジナルだと思え。そうすりゃお前が『木吉鉄平』だってことが必然になるだろ」

「けど、原作の『木吉鉄平』は、俺みたいなヤツじゃなかった!!明るくて、ムードメーカーで、天然で、バスケが大好きなヤツだった」

「物語なんて所詮書き手がどうとでも書き換えられるモンだろ。俺の話から引っ張ってくるなら、そもそも夢を100%覚えてる訳が無いんだから作者の理想なり見解なりイメージなりが入るのは当たり前だ。それなら、元々のオリジナルの『木吉鉄平』がお前だったって別に問題ねぇだろ」
「……………」
「よく分かんないけどさ、木吉は木吉ってことでしょ?だってオレ木吉って木吉一人しか知らないもん」
「お前の台詞の方が分かりづらい。だがまぁ同感だ。本物偽物と考え過ぎなんだよ。誰もんなこと気にしてねぇのに。悩んだ時は上手いモン食って寝てさっぱり忘れっちまえ」
「いい?私達が知ってる『木吉鉄平』はあなたなのよ!どうして生まれ変わったとか分からなくても、折角両親から命貰ったんだから腐ってちゃだめよ!これからは私達もあなたの事情を知ったんだし、もっと積極的に頼りなさい!!」
「ふはっ!どうだ?一人で殻に篭ってんのは楽しいか?下らねぇ悩みに勝手に周りを拒絶すんのは?こんなのは柄じゃねぇが、言ってやるよ。人間は独りじゃ生きてけねぇ。けどよ、お前は今独りか?独りだって答えるならはっ倒してやる。いいか、てめぇはてめぇだ。お前自身が『木吉鉄平』なんだから、精々胸張って図太く生きてりゃ良いんだよバァカ」





「……夢、か」
暗い部屋に一人。

「………ありがとう」
呟いた。



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