×夏目2



『話があるなら明日の昼、裏庭で』

そう言って去って行った夕日色ばかりが頭を巡る。
お陰でにゃんこ先生にエビフライを取られてしまった。

(あれ、舐められた傷が…治ってる……?)
気のせいだろうか。もう少し、ここの擦り傷は大きかったように思うのだが。

「なあ先生。どう思う?」
「知らんな。妖ではないのか」
「でも、嫌な感じはしなかったんだよな」
「どうせ明日になれば嫌でも分かるだろう。特別に私も着いていってやるから、答えの出ない問いなど捨ててさっさと寝ろ。ぶっちゃけ煩い」

「……うん、寝るか」
そう、だな。明日になればわかるんだ。今は、もう寝ないと。塔子さん達に心配をかけないためにも。


◆◆◆


約束の時間がやってきた。
西村達に断って、裏庭に行く。
既に人影が見えた。

「あれ、人影が二つ?」

そこにはもう一人の東京からの入学生もいて。

(本当に白髪赤目だ)

目が合うと、にっこり笑ってくれた。
夕日色の人は相変わらず無表情で、何を考えているのかが判りづらい。でも微妙に頭が動いたから、きっとあれで挨拶のつもりなんだろう。

「…こんにちは」
「うん、こんにちは!君が夏目貴史君だよね?昨日の事はキョウから聞いてるよ」
「え…?」
一体どういう意味の言葉だろうか。嫌な想像が頭の中を満たす。

「あ、そんなに青ざめないで?キョウは口下手だから、僕が疑問を受け付けるよって意味だから」

よほど酷い顔色をしていたらしい。
アルビノの人に下から覗き込まれ、夕日色に背を支えられてベンチまで誘導された。

「んー、じゃあまず、信じてもらうためにこっちが話さなきゃね」
「俺達には、異形の存在が分かる」
「!?」
いきなりぶっ込まれた情報に咽せた。

「大丈夫?それでね、この町に来てから僕は見えるようになったんだけど、キョウは触れるようしかならなかったんだ。だから、何もない所でいきなり壁にぶち当たったみたいな行動が多くて、いっそ全くその手の能力が無いか、若しくは見えるようになればいいのにって思ってたんだよね。そんな時に現れたのが君だ!なんか知らないけど、君の血を舐めた瞬間から、妖が見えるようになったんだってさ。祓う方は見えない頃からできたらしいから、昨日は見えたことで躊躇なく祓ったんだって」
「ぶっちゃけると何故かあの時だけ、お前の血が美味そうに見えたんだ。今は別に思わないが」

怒涛の情報ラッシュに処理能力が追い着かない。

「…え、じゃあ二人とも、妖が見えるってこと………?嘘じゃなくて?」
「ほんとほんと。今もそこにちっこいのが二匹、そっちに一匹いるでしょ?」
「う、うん」

「待て、流されるな阿呆。そっちの橙!夏目の血が美味そうに見えただと?」
「ああ、まぁあの時だけ。普段はそんな事は無いし、今も無い」
「はっ、そうだった!俺の血ってェ」
「夏目の血は妖には美味で妖力が増す力がある。貴様、若しや妖ではあるまいな」
「俺は人間だ、少なくともそう信じている。両親も祖父も人間のはずだし、祖母は既に他界していたが、ごく普通の人だと聞いた」
「ふん。ならばもっと遡った先の血の先祖返りか、若しくは…契約でもしたか?体を貸してやる、受け入れてやるといった契約ならば或いは、同化したのやも知れぬな。確率で言うならば殆ど有り得ぬが」
「この体、誰ぞにくれてやると言った覚えはない。そも、この町に来るまで感じることもなかったのだ。渺も含め、妖との契約という線は薄いと思う」

…なんかアルビノの人がそわそわして、る?
「ネコーーー!!何コイツブサかわ!ツルふか!?やばい何これ手触りツルふかしてるんだけど!?」
「うおぁっ!?止めんか小僧!」
「ツルふか?また妙な表現を………たしかにツルふかだな」
あれ、なんか一気にシリアスっぽい雰囲気が飛んでったぞ?何故か先生の毛の手触りに話がすり替わってる。

……着いていけない。このノリに…!

「この変なネコ、妖でしょ?お名前教えてもらっても?」

「あ、ああ、そいつはにゃんこ先生って言うんだ」
先生は気持ち良いのか、撫でられて満足気だ。
「そっかー。あ、そういえば僕達もまだ自己紹介してなかったよね、ゴメンねー。僕は白池渺、こっちが橙堂恭輔。白でも白池でも渺でも、好きに呼んでね!」
「橙堂恭輔だ、よろしく頼む」
「あ、はい、夏目貴史です。此方こそよろしくお願いします?」
「うんよろしくー」
「ふん、よろしくしてやらんこともない。手始めに美味い和菓子を寄越せ」

ちょっと先生!?いきなり何を!

「あ、昨日キョウが作った羊羹で良い?キョウは和食が得意でね、和菓子も美味しいんだよ!」
「ふむ、素人にしては悪くない」

な ん か 俺 以 上 に 馴 染 ん で る !
ってか和菓子手作りってすげえぇぇ。

「お褒めに預かり光栄」
「次は団子を作ってこい」
「気が向いたら。それと渺は洋菓子が得意だ」
先生の要求をさらっと受け流した!?できるこの人!しかも矛先変えたし。
「何!?ならばシュークリームだ!!」
「うーん?いーよー。じゃあ今度ね」
こっちもすげえぇぇ。シュークリームって難しいってどっかに書いてあった気がするんだけど!事もなげに言ったよ。

「ちょっ、先生!?」
「ん?何をそんなに焦っている?よかったではないか、仲間ができて。見えて祓えて見た所鍛えてもいるようだ、モヤシな貴様より余程使いようがある」
「酷い言い草!人を使いようって言うな!それと俺はお前の食い意地に怒ったんだよ!!」
「あはー、気にしてないよ。キョウと僕じゃああんまりお菓子作っても食べないし、誰かに食べてもらえるなら嬉しいし、僕達も良い経験になるし」
ケタケタと笑う白池は本当に気にしてないようで、隣の橙堂も頷いていた。

「何かあれば呼べ。此処を受験したのは渺が何か良いことありそうと思っただけの勘が理由だが、これも縁だ。武術の心得も多少ある。折角出会った見える者だ、モヤシならば尚更」
うちの学校受けた理由もひどいが、モヤシってェ…。

「あははっ!ほらキョウのおバカ、ショック受けてるじゃん!キョウの冗談はただえさえ判りづらいんだから、もっとわかりやすく言わなきゃ」
「冗談?その真顔でか」
「そーぉ!キョウちゃんってば表情筋死滅しててさ、大概無表情だけどごめんねー。ちょっと天然だけど怒ってないから!声もめっさ平坦で判りづらいけど、今のは冗談だから!」
「…そんなに判りづらいか?傷つけたならすまない」
「見事なまでの無表情だな」
「でも今ちょっとしょぼんってしてるよ」
「わからん」

「……ふふっ」

「お、夏目笑ったー」
「笑ったな」
「クラムボンはかぷかぷー?」
「笑ったな」
「なんだそれは」

「ははっ!とある日本文学の一文だよ、先生」





拝啓、■■へ。

今日、暖かい友人が二人、増えました。


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■■はもう会えない両親でも、今の優しい両親でもいい。今までの出会った人々へでもいいし、過去の自分にでも、全部ひっくるめた皆へでもいい。ただ、一つに固定してしまうとなんとなく収まりが悪かったので、敢えて伏せました。お好きな人を当てはめてやってください。

妖怪系のクロスオーバーでは、橙は何十代も前に妖と結婚してる家系。先祖返り。
白はお目付役の祓い屋とか妖退治屋とか陰陽師とか、そんな家系。
共に失伝している。



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