×夏目1




「知ってるか、夏目?隣のクラスに転校生来たんだぜ」
「あ、西村」
「残念なことに男だけどな」
「へー」
「興味薄っ!田村って奴だけどさ、それにしても今年、外から来た奴多いよなー」
「?」
「夏目は知らないのか。ほら、別のクラスにアルビノとなんかオレンジ色の髪の奴いるだろ?…いるんだよ!そいつらも今年、東京からわざわざうちを受験したらしいぜ」
意味わかんねーよな。

頭の後ろで手を組んで天井を見上げる西村。
アルビノっていうと、色素の異常とかで白髪赤目の人か。オレンジ色の髪っていうのも聞くだけでも随分目立つ。ってか不良っぽい。そんな人達によく気づかなかったな、俺。どんだけ周りに興味無かったんだ。

(まぁ、それだけ心に余裕ができてきたって証拠だよな)

優しい老夫婦に引き取られて、まぁ日々(主に妖関係で)色々あるけど、それでも此処の人達は優しくて。
己だけに一杯一杯で周りを見れなかった自分が、少しずつでも変われている証拠だ。

でも、たしかに言っては悪いが田舎寄りなこの町にわざわざ入学してくるとは、謎である。何もなければ良いが。

(ま、関わらなければ良いか)

その決心が破られるのは、結構近いうちである。


◆◆◆


「……こんな所で何をしている?」
「っ!?(げっ)」
見られた。
いつものように(慣れたくなかった)帰り道で妖に遭遇して、間の悪いことにそいつは質の悪い妖で、必死になって逃げて来た所だった。
にゃんこ先生はいないし。…お前俺の護衛だろ!?
そんな訳で、服はあちこち泥だらけ、擦り傷だらけなのである。

倒れてうつ伏せだった頭をもたげれば、目に入るのは鮮やかな夕日色。
そう。涼やかで、でも聞いたことのない声の持ち主は、先日西村から聞いた不良(仮)だった。

(ヤバイ。また頭が可笑しいって思われる)

きっと言われるだろう言葉に身構えて、また顔を伏せる。早く、早く、終わって、いなくなってほしい。
慣れているとはいえ、やはり嫌なモノだから。

「……」

ぐいっ。
腕を引っ張り上げられる。
夕日色の人が片腕だけで俺を持ち上げて立たせたのだ。……マジか。見た目よりも力持ちだ。…まさか喧嘩で培ったとか!?

「大丈夫か」
「え、あ、ありがとうございます?」
「…ああ。………お前が、渺の言っていた…」

ビョウ?誰だろうか。
それよりもとりあえず、助けてくれたということで良いのだろうか?もしかすると、案外良い人なのかもしれない。そうだよな、見た目で判断しちゃダメだよな。

「血が出てる」
「え?あ、ああ、何度か転んだので…!?」
えぇぇぇ!?なんか指食べられた!?怪我した所舐められてる!?なんかゾワゾワするからやめて!?!?

「舐めれば治る」
「ワイルドですね!?」
しまった!動転のあまり思わず突っ込んでしまった。

「…そうか?驚いたなら悪かった」
よかった、怒ってはいないみたいだ。こんな背も高くて目つき鋭い人に怒られたら大分怖いに違いない。

「ま、まあ、驚きましたけど大丈夫です。心配してやってくれたんですよね」
「…そうだな」
(…なんか間があった?)
「名前はたしか、夏目貴史だったか」
「え?はい、まあ。なんで知って…?」
「友人が、転校生の話をしていた」
「あ、ソウデスカ」
そうだよな!転校生って目立つよな!恥ずかしい!!

「あの、貴方は…」
ゾクリ。
嫌な気配に背中が粟立つ。頭の中で警鐘が鳴る。
きっとさっきの妖だ。此処で時間を潰し過ぎた。

「ヤバイ!早く、此処から逃げてください!!」
ヤバイヤバイヤバイ!他人を巻き込んじゃダメだ。早く此処から遠ざけないと。

「それには及ばない」
「え?」

「此方こそ礼を言う。お陰で、よく見える」


「それってどういう……!?」


茂みから現れたその異形。そいつをどこからか取り出した鈍く輝く棒で叩き潰した夕日色に、疑問の言葉は立ち消えた。




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トンファー。父の流派の空手で習える派生武器。恭輔が使えるのは他に手甲、二節棍、三節棍、棒術、薙刀など。
鞄に入れるのに丁度良いのがトンファー、三節棍、手甲。



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