黒バス 2
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※長い。
目を開けた。
いや、そもそもいつ目を閉じたっけ?
いつの間にか、真っ白な空間に立っていた。
遠近感のない真っ白な空間。
床と壁の継ぎ目も見えなくて。
そもそも自分は床の上に立てているのだろうか。
ぐるりと見渡して、自分以外何もないことを確認した。
とかちょっとばかし格好良く説明してみたけどさ、ぶっちゃけこれ、テンプレな神様遭遇な場所と似てない?
シリアスから一転、ぶっちゃけたことを考えながら、彼女は今までの経緯を思いだそうとする。
「んー…、ふむふむ。全く思い出せないねっ」
学校が終わって親友と途中から別れて一人で帰った後の記憶がさっぱり無い。
「あんたはあの後死んだのさ」
「うおぁっ!?」
唐突な声に瞬き一つ。いつの間にか正面に人がいる。
金髪碧眼な如何にもな容姿。あれ影無くね?
「……幽霊?」
「違うよ。初めまして、世界トリップ会社から派遣されました、■■■■でーす。■■って呼んでくれ」
「え?は?何?」
「あ、名前分かんない?じゃあ好きに呼んでくれていいよ」
しゃべり方が若干ウザイ。てかなんかチャラい。いい年こいた大人が。顔は美形なのに中身残念とか。萌え………ねぇ。この残念じゃ萌えられない。
「つまりあれだ。お前に価値は無い」
「ひでぇ!」
「あ、口に出てた?ごっめーん!自分に正直なもんで」
「棒読み!ひでぇ!」
けらけらと笑ったまんまのクセに何を言う。
「それで?残念。あんた誰ここ何処。まさか本当に神様とか言っちゃったりするワケ?」
基本ボケを心掛けてるけど、ここはきっとあたしがボケたら話が進まない。
親友曰く『食えない笑み』を浮かべつつ、話を戻した。
「神様とやらじゃあないよ。よく皆間違えるけどな。俺は世界トリップ会社から派遣されて来たのさ。まぁ、人間かと訊かれたらノーと答えるけど」
「世界…トリップ会社……?何ソレ」
突拍子もない言葉。
でも、どこかで聞いたことがある気がする。
どこだったっけ?
「『世界』ってーのは想像の数だけあってな、ある一定の条件を満たしたヤツ等から更に抽選で一握りの者だけがお前らの言う所の『異世界』ってんのにトリップすることができるようになるわけ。あんたは見事条件を満たし当選した。んで偶然タイミング良く死んだからここにご案内ーってな」
「……なんていうか…まぁアレだよね、いきなり言われても信じられないねうん。特にこんな残念に言われたって。あたし夢でも見てんのかしら」
たしかにトリップなんてオタクの夢だけども。だがしかしこんな残念が出てくる夢見るほど危篤じゃなかったはずだ。
「なぁ…全部口に出てんだけど。そんなに俺のこと嫌い?酷くない?泣いていい?」
「泣けば?ああでもあんたの話が本当なら、あたしが納得できるような説明してからにしなさい」
「あんた鬼か!?」
「鬼灯様万歳!!あたしはあの人(鬼)を超える!!」
「止めろ!!」
あ、また脱線させちゃった。
「大体あたし、死んだ記憶無いし。帰り道以降の記憶も無いけど。そもそも会社って何!?トリップするのに会社なんてあるの?なんかオタクの夢壊された気がするわー」
「それこそ知るか!死んだ記憶が無いのは、精神崩壊を防ぐため。誰も死んだ記憶とか痛みとか思い出したくないだろ?あんたらで言う所の出産と一緒だよ」
「それなんか違くない?」
出産ってのは痛すぎて痛みを忘れるんだってお母さんに聞いた気がする。
あれ?一緒?どうなんだろ。
「会社はまぁ、そんなもんなんだと理解しろ。それにこれはあんたも合意の上なんだぞ?」
「は?」
「んー、そうだな。あんたの時間の流れからして大体半年前ってところか。ネットでこの会社とトリップ契約したはずだぜ?トリップ時期は死後、トリップ先は『黒子のバスケ』。方法は転生で記憶有り。しっかり契約書に書いてある」
ひらひらと、いつの間にか片手に持つ紙、恐らくは書類の束が揺らされる。
「………………」
半年前、半年前。あたしの記憶力はそこまで良くない(趣味は別)。そんな非現実的な契約なんてしかも半年前とか覚えてるわけがない。
思い出しなさい、自分!今こそオタクの力を見せる時!とかもうね現実逃避はもういいからちょっと真面目に思い出しなさいあたし。
「………………」
「…おーい?大丈夫かー?どのみちあんたが覚えてなくったって契約は履行されるぞ?」
「…………思い出した」
「あ、マジ?」
丁度黒子のバスケが有名になってきて夢とか腐とか増えてウハウハしてた頃だった気がする。
勿論あたしは発売当初から目を着けてましたが何か?
面白いサイト探してあっちこっち行ってたら見つけたアンケートっぽいのにトリップ会社って書いてあった気がする。
「そーそー。覚えてんじゃん。それでさ、あんた三つの願い事全部保留で提出しちゃったんだよ。その願い事を今聞きたいんだわ」
「まぁいいや。たとえこれが現実でも夢だったとしても別にあたしにデメリットは無いし。逆にあなたたちがあたしをトリップさせることのメリットはあるのかな?」
「あるけど企業秘密な。心配しなくともあんたにデメリットは無い。乗り気になったんなら願い事をどうぞ、お客様?」
むー。肝心なことはぐらされたっぽい。でも嘘はついてなさそうだから良しとしとく?
「んー、じゃあ願い事の前に質問だけど、あたしの親友一人一緒に連れていくって、できる?」
そう言うと、目の前の残念が驚いたように目を瞬かせる。
「何」
「いや、少し驚いただけだ。今まで他にトリップの手続き担当したヤツらはそんなこと言ったことなかったからな。可能か否かなら可能だ」
「じゃあ一個目それね」
「いいけど…その場合親友さんは強制的にあんたが死んだと同時にトリップすることになるぞ」
「もーまんたい!我がソウルメイトならきっとわかってくれる!二つ目は、元の世界と同じくらい二次元とか2525動画とかネットとかを充実させること。あたしの癒しが無いとか認めない。特にあたしが大好きな歌い手さんとか漫画とかも、作者とか多少の違いは認めるけど存在させといて」
残念再びポカーンタイム。
何気にイケメンだからか、間抜け顔してても絵になるわー。ムカつくわー。
「……あんたの親友への謎の信頼はとりあえず置いておくわ。まさか願い事に二次元の充実が来るとは思わなかった………」
向こうもある程度はそういう文化発達してるけど、確かにこっちとまるきり同じ歌い手さんとかは少ないな。漫画とかも一部無いのあったし。
しっかしまぁ、なんていうか。
「おーけーおーけー。あんた俺の意表突くの好きだな叶えてやる。意外と考えてるのにも驚くけど、それもうちょいまともな方に使えねぇの?」
「あたしは趣味に全力を注ぎ込む!」
「ああそうですか」
もう突っ込むの面倒くさくなった。
そんな心の声が聞こえてきそうだ。
だがしかし!あたしはそんなもん、全力でスルーしてやるぜ!
「三つ目はー………保留で」
「はいはい……って保留!?」
あっはっは。愉悦愉悦。
残念、貴様に休む暇などないのだよ!
「うん、保留。正しくは一回だけトリップ先でもあんたを召喚できて願い事を叶えるって権利。それ三つ目」
「あ゛ー……。ちょっと待て。上と掛け合ってくる」
「いてらー」
なんつーもん願いやがるかね、この規格外は。
今までのヤツらは揃いも揃って『逆ハー補正』だの『最強補正』だの体型とか顔面偏差値の向上だの、程度の差はあれど皆馬鹿みたいに自分一人が愛されることを望んでた。生け贄と称して人を殺す馬鹿は在れど連れていくことを望むヤツはいなかった。
ま、性別を女ってはっきり指定しない限り、ランダムになるんだけどな。そこだけは胸がすく気分になれる。中には俺たちまで望む馬鹿もいたしな。
他には世界の理をねじ曲げる馬鹿とかいて仕方なくトリップさせるなんて事態も少なくないくらいだ。
こいつがどんだけ規格外か分かるだろ?
親友なんて気にするヤツはいなかったし、わざわざ二次元に願い事を消費するヤツなんて見たことねぇし。
こんなある意味真っ直ぐなヤツなら、もう一度合間見えるのも、嫌じゃあない。
保留なんていう変わった願いも、叶えてやりたくなる。
だからこそわざわざ掛け合いに行くんだが。
ま、先ずは上司の説得から、だな。
残念が消えて、然程経たないうちにまた現れた。
「おかー」
「よぉ。オッケーもらって来たぜ」
「お、ホント?サンキュー」
心なしか、一番初めの会ったばかりの時より笑顔が自然に見える。気がする。
「そーそ、最後。性別に希望はあるか?」
「んー。どっちでもいいかなぁ?も一回女でも、男っていう未知の体でも面白そうだよねっ」
三度ポカーンな残念。
でももう慣れたのか、次の瞬間には吹き出すように笑った。
「ははっ!!ホントあんた規格外だよ。あんたみたいなヤツは初めてだ。願い事も、性別も」
「そりゃあ。あたしだし?」
どやぁって顔で見てやれば、更に笑う笑う。
「今までのヤツらは何かしらの補正とか金とか権力とか、そんなんばっかでさ。あんたみたいなのもいるって知って、目から鱗が落ちた気分だ。性別に関してもそう。馬鹿共は女しか有り得ねぇとか考えてるからな、はっきり指定しなきゃランダムになるようにしてる。サービスで性別を訊いたつもりだったのにランダムで返されたのも初めてだよ」
ふむふむ。だから最初笑顔がなんか変だったんだ?
さしずめ警戒とか侮蔑とか?
「まー仕方ないよ。ある意味トリップってのはオタクとか夢見る女の子()とかの夢だからねー。補正できゃっきゃっウフフするって妄想は王道だし。にしてもさりげなく馬鹿って言ってるねぇいいぞもっとやれ」
あれだよね、いくら夢が叶うとはいえ欲望垂れ流されちゃ聞いてる方はあんまいい気分にはなれないよね。
しかも聞いてる限りそんなのが何回もとか。
御愁傷様としか言い様ないわー。なむなむ。
「そうなんだよ俺の苦労わかってくれるか!でもまぁ、あんたみたいなのもいるって知れただけで今回は収穫だ。ありがとな」
別にあたしのお陰ってワケでもないのにお礼言われるとかなんかこっ恥ずかしいねっ!
「いんやー、こちらこそありがとって言わなきゃ。最後の願い事だって、別にあんたが無理って一言言えば済む話だったのに、わざわざ許可もらってきてくれたし。いつかまた呼び出すから、そん時はまたよろしくねー」
「ああ。待ってる」
そこまで言って、残念…最後まで残念じゃ可哀想か。
彼でいいや、うん。今度会う時までに名前決めとこ。
彼が雰囲気を変えた。
さっきまでの砕けたものから真面目なものに。
「じゃあそろそろ別れの時間だ。あんたと話せて楽しかった。これから行くのはあんたの世界だ。原作崩壊でも傍観でも好きにしな。あんたの来世が楽しいものであることを願ってる」
「うん、ありがと」
「じゃあ、行ってらっしゃい」
「うん、行ってくる。またね」
そうして、今度こそあたしの意識はぷっつり途切れた。
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