伍 大人の話
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―――それは、四半時ほど前に遡る。
「――なっ!!それは本当ですか!?」
時刻はまだ日も昇らない早朝。
薄暗い部屋に青年とやや老いた男。
「どことも繋がらず四年も逃げ延びたことの方がすごかろう」
話し合うその内容は、四年前に抜け忍となった二人の男女のことだった。
「親は殺したが、子までもうけていたらしくな。まだ幼子の齢にして、既に婆娑羅を開花させたと報告があった」
「……その子供は」
「お前に預けよう。既に忘却の術をかけてある」
「忘却の術!?あれは禁忌ではありませんか!!」
忘却の術。
その名の通り、記憶を失くす術である。
しかし、副作用として大人でも精神に異常をきたす危険がある。
そんな術をまだ幼子と呼ばれる年齢の子供にかけるとは。
「幸い、目立った精神の異常はなく、どうやら記憶の他に感情を失くしただけのようだ」
感情が無いなど忍に最適ではないか。
そう言って薄く笑う目の前の里長に、青年はめまいがした気がした。
「しっかりと『道具』に育てよ」
湧いた殺意を押し隠し、青年は一礼して部屋を後にした。
青年、百地が件の幼子に対面するのは、このすぐ後である。