陸 彼
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…――時は過ぎる。
「鬼子!」
「忌み子!」
「赤い目の忌み子だから親に捨てられたんだろ?」
「こっち来んな!!」
「…」
子供というものは、時に何より残酷になる。
感情を隠すことがない故に。
今もそう。
数人の子供達が、一人の、彼らよりも幼いであろう少年に向かって罵声と石を投げつけていた。
「……お前達は、忍に向かないな」
しかし、投げられる石を最小限の動きでかわす少年は、感情を映さない瞳でそう言い放った。
「忍は道具。感情は要らない。」
そう告げる少年は無表情で。
「っ!…なっ、なんだよコイツ…気持ち悪いんだよ…!」
「い、行こうぜ」
自分を苛めていた奴らがびびって逃げ出すのを表情なく見つめていると、不意に背後から声がした。
「また絡まれたのか、無月丸。あんま苛めんなよ?」
「師匠!…別に苛めてなんていません。きゃんきゃんと五月蝿かったので黙らせたかっただけです」
眉間にしわを寄せて唇を尖らせる仕草は、先ほどとはうってかわって年相応なものだった。
「…お前って結構毒舌だよな。どこで覚えたんだか」
「それよりも師匠。何か御用ですか」
「ああ、そういえば。――忍務だ。着いてこい」
◆◆◆
『無月丸』といえば、未だ十にも満たない齢にして、すでに殺した人数は数知れず。
言葉を正確に理解し、常に無慈悲で冷静。大の大人の忍でも失敗するような忍務でもことごとく成功させる。その姿はまさに忍そのもの。道具のように淡々と、どのような忍務も成功させるのだ、と、畏怖を持ってそう噂される。
まぁ、百地の前ではいたって普通の少年なのだが。
◆◆◆
与えられた忍務を滞ることなく終わらせた無月丸は、とある話を聞いて一目散に百地のいる場所へ向かった。
「師匠!!」
辺りに誰の気配も無いことを確認して、無月丸は声を上げた。
「あぁ。帰ったか、無月。早かったな」
「はい、つい先ほど帰りました。師匠、長になられたんですね!おめでとうございます」
無月丸がそう言えば、百地は苦く笑った。
「ああ。もうお前の耳にも届いたか。っつてもなぁ、頭領なんて面倒くさいだけだぞ?」
「師匠はそういう所、妙に欲がないですよね」
「…お前、本当に何歳だよ。どこでそんな難しいこと覚えて来るんだ」
この子供はまだ五つ六つ程であったと百地は記憶している。