とりあえず蘭丸は尋ねる事にする。
「なあ今何が起きてんの?」
何故か鬼が大爆笑した。
「おちび、どの辺から理解できなかった?」
佐助に聞かれたので、正直に答える。元親を指差して、
「そこの鬼が出て来たところから」
と言ったら、最初から、ね。と佐助が呆れていた。



幸村が、鬼に用がある、と屋敷の奥へ連れていったので、蘭丸と佐助、慶次が残される。
「あの銀髪の鬼は、元親って名前の『水鬼』さ」
「すいき?」
「水を操る鬼のこと。鬼族の中でも特殊な種族なの」
俺様や慶次だって歯が立たないくらいに強いんだぜー、と佐助は笑う。
「んでその鬼族にしか使えない術があって、それがおちびが見た鬼の登場に関わってんの」
「…さっき言ってた『鬼界』って奴か?」
「あたりー」
聞けば、『鬼界』とやらは鬼族だけが通る事が出来る道のような物らしい。それを使えば瞬間移動に近い事も出来るのだとか。
「あと、あの可愛い女の子は鶴姫ちゃん。海神様ね」
にしても元親、『投影術』なんて使えたんだねー。
慶次が小猿に髪を遊ばせながら言う。とうえいじゅつ?と蘭丸が首を傾げると佐助が苦笑いして教えてくれた。
投影術とは遠隔地の対象を映す術の事で、これを使えば口寄せが難しい妖と簡単に対話出来るという優れた術だ。ただ使うためには面倒臭い手順をしっかり覚えていなければならないし、かなりの妖力を必要とする為に使える者は限られているらしい。流石は鬼の旦那だよねー、と佐助が笑う。
「…じゃあ、九尾狐ってなんなんだ?」
蘭丸の問いに、佐助の笑みが凍った。眉間に一瞬だけシワを寄せてから、苦笑いを浮かべる。慶次は黙ったままだった。
「九尾狐っていうのは、千年(ちとせ)生きた狐神さ」
猫又の狐版って言うとわかりやすいかな。
「妖怪の中でも桁外れに強くって、多分俺様なんかじゃ時間稼ぎにすらならない。鬼の旦那でももしかしたら負けるかもしれない」
そうなったら誰かが幸村を守れるのか。答えは否だ。
「とりあえず結界を強化して…出来れば救援も喚びたいよね」
佐助がぶつぶつと呟く。
「政宗か…小十郎さんか…。小十郎さんなら大丈夫かな」
佐助の思考が一つの結論を導き出す。佐助が慶次にそれを伝えようと口を開いた。が。

がしゃぁぁんっ

硝子が砕けるような音に佐助が口をつぐむ。慶次が一歩前に出て警戒した。蘭丸はよく分からないまま、とりあえず「何か」に対応するために足を引いて半身の姿勢をとる。
そして「何か」は姿を現す。
「…此処が火神の社か。神の社にしては結界が脆いが、我には好都合だな」

かちゃん

金属を鳴らすような音と共にそれは現れた。





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