月のない夜は暗い。そのかわりに星が沢山見える。ベランダで俺は空を見上げる。横には元就が。
俺達の左の薬指にはシンプルな指輪。宝石なんて一個もない。
この星が宝石だ。
そう言ったら鼻で笑われた。いや俺もくさい台詞だとは思ったけど。

「…見ろ、あれがアンドロメダだ。アルフェラッツが見えるだろう」

アルフェラッツはペガススの四辺形の一角なのだ。
そう言いながら、星を指差す元就。元就は俺がよく知らない事も知っている。

「あの少し暗い星がミラク。あれがアルマック。和名はアルフェラッツから順に、頭、帯、靴だ」

650光年も離れた星々に思いを馳せてみる。遠すぎてイマイチ実感が湧かない。それでも元就が幸せそうならばそれで良い。

「ちょうどあの辺り。彼の有名なアンドロメダ銀河だ」
「お、肉眼でも見えんのか」

指差された方角を見れば、ぼんやりと霞んだ夜闇に、そこに星々が密集しているのがわかる。
きらきらと輝く星に目を奪われる。都会ではこんなに沢山の星は見えない。

「…ああ、あれがペルセウス座だな。晴れて月がない夜でないと見えぬのだ」

指差された空には大弓の形の星座。近くには星の固まり。

「あれって昴か」
「そうだな。プレアデスだ」
「つまりは昴だろ」

俺の目には五個しか見えない星の粒。視力は良い方なのに。
こつりと肩に何かが乗る。見てみると元就の頭だった。元就の左手に右手を重ねる。細い指に輝く金色。幸せだ。

(なあお前が望むなら、魔法をかけて、この星の海を宝石に変えられる気すらするんだ)

そんな事、恥ずかしいから言わないけれど。






忘れられない、あの星空。星だけが変わっていない、この風景。
シンプルな指輪は、俺の左の薬指と、胸元で鎖に繋がれて輝いている。
伸ばした手が、星に届くことはない。

隣には、誰もいない。














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秋月様リクエストの「SEA OF STARS/GRANRODEO」でした。前書いたのを読み直したら、書き直したくなったので。前書いたのはタイトル変えてShortに収納。
タイトルは劉禹錫の漢詩…のはず。意味はわからないけど好き。


参考文献…
 野尻抱影著「新星座巡礼」角川文庫
 (巡礼の部分は旧字です。礼→禮は変換出来たけど巡が出来なかったので)