家康第2ルート→元親第1ルート後のイメージ 日が、地に墜ちていた。 地に臥せたその姿は血にまみれ、神の名とは程遠い。 死んでいるかと思ったが、まだ生きていた。豊満な胸がかすかに上下している。 幸村は苦く笑う。こんな苦しみの中でも、この方は死ねないのか。 その躯を抱き抱え、馬の背に乗せる。関ヶ原はとっくに落日を迎えていた。 「どうしたのさ、それ」 城に戻ると佐助に聞かれた。腕の中の存在は、まだ目を醒まさない。 「倒れておられた。佐助、手当てを」 仕方ない、と笑って佐助はそれを受け取る。そしてそれと共に影に消えた。 さて、血を流すか。赤い戦装束についた赤いものを見て、幸村は眉にシワをよせた。 「う……?」 小さく呻いて、家康は起き上がる。何故か目尻から溢れた雫を袖で拭う。 なぜだろう。嫌な夢を見ていた気がする。 くあ、と欠伸をすると再び涙が零れたが、それを気にせず辺りを見回す。見たことのない部屋だ。物がない、というのが一番の印象か。何処だろう、と意識を巡らせたところで、障子に影が映った。 「……誰だ?」 思わず低い声が喉から出た。しかし影は少し驚いただけのようだった。 「真田幸村にござる。目を醒まされたのでございますな、徳川殿」 入ってもよろしいか、と尋ねる声に、家康は入ってくれと答えた。しばらくして障子戸が開く。赤い着流し姿の幸村と、家康の目が合った。 「……は」 「は?」 「破廉恥でござるぅぅ!!」 夜着のままだったことを失念していた。家康は耳を押さえたまま、せめて胸元は直しておくべきだった、と後悔した。 着流しに負けぬくらいに真っ赤に顔を染めた主を見兼ねて、佐助が姿を現した。着物を差し出して着替えるように、と家康に言う。家康が了承すると、主の首根っこを掴んで退室した。 受け取った着物を何とは無しに眺めて、家康は嘆息する。女物の着物だ。比翼仕立で色は誂えたような花山吹。 「…こういうのは似合わないんだがなあ」 だが夜着のままでいるわけにはいくまい。家康は山吹色を纏う決心を固めた。 「…徳川殿、入ってもよろしいか?」 「ああ、もう大丈夫だ」 今度は静々と障子戸が開く。赤い着流しと亜麻色の髪が覗いた。 「少しお話をしたいのでござるが」 「ああ、ワシも聞きたい事がある」 幸村は静かに相対して座る。ぴんと背を伸ばした姿は立派な一武将だ。丹田に力を込めて、その瞳を見返す。相手の目に師の影が映ったような気がした。 「何があったか覚えておられますか」 先に口火を切ったのは幸村だった。 「…いや、はっきり言うと記憶があやふやでな。よく覚えてはいないんだ」 「そうでござるか…」 安心したように幸村は息を吐いた。しかしその吐いた息を取り戻すように、大きく息を吸う。ぴりりと空気が幸村の気配に揺れる。まるで戦場のようだ。 「関ヶ原におられたのは覚えておられますか?」 「…それくらいは」 「布陣は」 「えっと…」 記憶を探る。何度も紙面を見ながら軍議をしたから、覚えている。 「ワシは一番後ろに陣を敷いて、忠勝と巫殿がその前で、独眼竜と孫市が先頭に」 「本田殿と巫殿は、石田殿と大谷殿と。政宗殿と雑賀殿は某と島津殿が、相手をしました」 「じゃあワシは…?」 戦闘していなかったのか。否。誰かと戦っていた。血にまみれた、紫。舞う銀色。 あれは、 「元親…?」 ぐらりと景色が歪んだ気がした。幸村の声が家康の耳に届く。 徳川殿。 その声を最後に、家康はふつりと気を失った。 甘受せよ (敗戦を) (絶望を) ------ 多分続くよ! |