「なあ人識」 「何だよ出夢」 「僕らは、こんなに幸せでいいのか?」 意味のわからない疑問に、人識は隣の出夢を振り返る。だが、出夢はこちらを見もせず、いつものように長い髪を風に遊ばせているだけだ。 「どういう意味だ?」 仕方なく、疑問の意味を問う。出夢は彼にしては珍しく笑みを浮かべないままに呟いた。 「『殺人鬼』と『殺し屋』が、こんなふうに馴れ合って、なあなあな関係でいて良いのか、僕は思うんだよ」 「いいんだろ」 そう答えてやると、出夢は目を丸くした。あ、アホっぽい。 「殺し合うときはとことん殺し合う。馴れ合うときはとことん馴れ合う。そんなもんだろ」 それとも、お前はこうやって俺と馴れ合うのは嫌いか? そう言うと出夢は笑った。いつもみたいな笑い方ではなく、小さく微笑むような笑み。 「なあ人識」「何だよ出夢」 「大好きだからべろちゅーしようぜ」 「断る」 「あー。さては僕にファーストキス盗られたのまだ気にしてんだー?」 「ちげーよ」 「じゃーしようぜ」 「だが断る」 殺人鬼と殺し屋が馴れ合えないなんて、誰が決めた。まだ幼い二人は殺し名でありながら、馴れ合うことを選択した。 二人はどこまでも子供だった。 ひゅーひゅーと息が漏れる。腹が熱い。息をする度に灼熱が身を焦がしているみたいだ。 ああ、僕は死ぬんだな。 出夢は天井を見上げる。体育館特有の高い天井を。 短い人生だったなあ。まあそれなりに幸せだったし、良いか。 ふわふわとした言葉が浮かんでは消える。 いやあ、それにしてもあいつは反則だろ。『死色の真紅』ですら、あそこまでめちゃくちゃじゃなかったし。 脳裏にあの『橙色』を思い浮かべる。気付いたら、腹に穴が開いていた。笑えない。 ああ死ぬのか。死んだら理澄に会えんのかな。会えるよな。だって僕らは一心同体だしな。 『彼』に恋してしまった妹を想う。 彼女は『彼』に恋をした。 僕は『彼』に恋をした。 (なあ、理澄) 僕らは幸せだったよな。 殺し屋だけど、恋をして。 「出夢君!!」 『彼』にそっくりな、『彼』の声がする。 せっかくなら『彼』に看取ってもらいたかったな。 くだらない事を考える。 そうだ。せっかくだから。妹が理澄が恋した相手に、『希望』を遺して死んでやろう。ざまあみやがれ、『死色の真紅』。僕はお前が隠していたことを知っている。 なあ、『人識』。お前は今、何してる?僕の事なんか忘れちゃってんだろ? ああ、だけど覚えててくれて、僕が死んだ事を哀しがってくれたなら。僕は幸せだ。 「 」 さよなら。 お前は僕が大嫌いだっただろうけど、僕はお前が大好きだったよ。 『死』と『彼』についての考察 |