最初は戦国だった。
友人の友人という関係だった二人は、やがて敵対し、無関係になった。
片方は労咳で死んだ。
片方はそれを聞いて、伝えたかった言葉に気付いた。
絶望のまま、片方は生きた。
何年か後に、もう片方も死んだ。

二回目は江戸に幕府がある頃だった。
片方は呉服屋の放蕩息子。
片方は貧乏な物書きだった。
片方は片方の書く、難解だが皮肉めいた作品が好きだった。
片方は前世を覚えていた。
片方は前世を知らなかった。
二人は恋仲になり、籍はいれられないものの、それなりの幸せを手に入れた。
夜に呉服屋で火事があったらしい。それを片方が聞いたのは、昼時だった。
悪い予感を覚えながら、片方の家に向かった。
黒焦げた片方の死体が、瓦礫の下から掘り出されていた。
片方は空虚なままに生きた。
結局、前世を思い出す事はなかった。











三回目は倒幕の文字が掲げられている時代だった。
片方は思想家となった。
片方はその護衛になった。
片方は倒幕を叫び、尊王を掲げ、攘夷をうたった。片方はその横で刀を振るった。
片方はまたもや前世を記憶し、片方はまたもや前世を覚えていなかった。
ばらばらと雨が降る夜。片方は傘を差しながら、屋敷に帰ろうとした。世間には知られてはいけない会合の帰りだ。十人ほどの男に囲まれた。手にはぬらりと輝く刃。
命が断たれる記憶を、片方は思い出したような気がした。だが全て思い出す前に、片方は胸から血を流して死んだ。
片方はあまりに遅い片方の帰りに疑念を覚え、屋敷を出た。街灯の下に、赤い姿を見つけた。黒い外套は血で赤黒く染まり、雨を吸って重みを増していた。それでも片方は、その躯を抱き上げると呼吸を確認した。息はなかった。
片方は片方を抱えて慟哭した。雨音が二人を包んでいた。
思想家を失った片方は、姿を消した。










四回目はまた戦乱の世だった。
人々は、海の向こうに敵意を向け、銃口を向けていた。
また二人は出会った。
今度は二人共が学生であった。机を並べて口を揃えた。お国のために全てを捧げよう、と。
だが前世の記憶のない片方は、病に侵されていた。あと何年も生きられないと医師に診断されていた。
前世の記憶のある片方は健康だった。生まれてこの方風邪というものをひいた覚えがないくらいに。
赤紙は健康な片方に届いた。行きたくない、と思いながらも制服に身を包んだ。
それでは逝って参ります。
片方は特攻隊に選ばれて、敵艦隊に突っ込んで死んだ。
片方はそれを知らないまま、爆撃で死んだ。

五回目は平和な世だった。
またもや二人は出会った。
片方は前世がそうであったように病人で、対処のしようもなかった。
片方は病人ではないものの、また前世の記憶を所有していた。
二人は病院で出会った。片方は逃れられない死の絶望の中で。片方は新たな始まりの希望の中で。
二人は恋に落ちた。
過ぎ行く日々は二人の愛を深くしたが、同時に片方の躯を病が進行していた。片方の指が動かなくなった。そのうち腕や足が動かなくなり、ついには心臓さえも動かなくなるのだろうか。
絶望した片方を片方は慰めた。片方は泣き止んだ。
ある日、片方が片方を背負ったまま、海に向かった。二人共が笑っていた。
靴のまま海水に足をつけた。片方は片方を背負ったまま、水平線を目指した。
途中で二人の姿は波にのまれて消えた。

そして、また。


Never ending
(終わらない、終われない)

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140413改定