尋ね訪ねて、幾千里。
あなた離れて、閻魔様。
明日の行方を、尋ねや来られ。
恋の行方を、尋ねや来られ。
とこしえの嘆きは、闇の中。
うたかたの夢路は、光の内。








ねぇ、長政さま。
市、長政さまの事、大好きよ。
頑固なところも。
素直じゃないところも。
だからね、ごめんなさい。
市は悲しいの。





長政さま。市はこの一年間、とっても楽しかったわ。
夏は、大湖に行ったわ。二人とも暑いのは苦手だから、水しぶきが気持ちよかったの。
秋は、紅葉狩りをしたわ。朱い葉っぱが絨毯みたいになっている上を、二人で歩いたの。
冬は、寒くて二人でくっついていたわ。火鉢に翳した手の平があったかかったの。
春は、一緒にお花見したわ。散っちゃう桜が可哀相だったけれど、とても綺麗だったのよ。


この一年間、市は幸せだったのよ。
兄様の妹である、という罪を忘れてしまうくらいに。
「ねぇ長政さま」
今、長政さまは幸せ?







あのね、長政さま。
でも、ひとつだけ後悔してる事があるのよ。
大湖のほとりの彼岸花を見に行っていただけなの。お土産に赤いのと白いのを幾つか摘んで。なのに帰ってきたら、小谷城を火が嘗めていて。長政さまはここに倒れていたのよ。
兄様でしょう?
貴方さまを斬ったのは。
わかるのよ。
市はあの人の妹だもの。

ごめんなさい。
兄様を止められなくて。
ごめんなさい。
貴方を助けられなくて。

「ごめんなさい」
長政さまの白銀色の鎧は、真っ赤になってて。
それが返り血だけじゃない事くらい、市にもわかるわ。
もう、貴方さまはいないのね。





「死人花」が、「曼珠沙華」が、はらはら落ちるの。
市の手から、墜ちるの。
長政さまに向かって堕ちるの。
赤赤白赤白白赤赤。
(嗚呼、その色は、貴方さまのよう)









長政さま。
「ずっと一緒よ」
さよなら。
悲嘆だらけの世界よ。
この世は私の地獄でした。
願わくば、根の堅州国であの方に会えん事を。








死人花:彼岸花の別称
曼珠沙華:彼岸花の別称
根の堅州国:黄泉の国

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いおり様リクエストの
「最後のリボルバー」×「浅井夫婦」でした。
独白、意味がわかりにくい、がテーマ。
冒頭の詩の最初の四行は、3の市の台詞より。
毎度ながら、いおり様のみお持ち帰り可。