いつか、こうなる事は分かっていた。



先日の一揆鎮圧の際に、薄い鎧を身につけていた。勿論、わざとである。
前々から、謀反の動きがあるのは知っていた。一揆により国主が傷付けば、謀反人は動く。それを計算した上でだ。案の定、彼らは怪我を負った我を隔離した上、食事に毒を盛り歩けぬようにした。
愚か者め。それさえ、我が策の内よ。
我を弑した貴様らは、我が息子の手により討たれるのだから。


人として生を受けた以上、死を迎えるのは至極当然の事だ。
覚悟もしていた。
なのに、こやつが来ただけで、我が覚悟は霧散してしまいそうになる。それでも何とか繋ぎ止めて、拒絶の言葉を吐くのに、こやつは帰ろうとはせぬ。
理由を求められた。仕方なく答えれば、「後悔は無いのか」と言われた。
無い、と言ってから逡巡する。本当に我は後悔しておらぬのだろうか。
ふと転がり出た言葉は、生への渇望。浅ましい言葉に、こやつは「助けてやる」と答えた。
無理だ。わかりきっている。
たとえ、我が歩けたとしても。我が戦えたとしても。
それなのに、こやつは、元親は「一緒に逃げよう」などと言うのだ。




元親の体が倒れる。
倒れながらも、元親は我が体を抱え直して、我に被害の無いように配慮していた。
仰向けに倒れて、腹から血を流しながら、こやつは言う。「逃げろ」と。
たわけが。貴様を捨て置いて逃げられるわけがなかろう。
元親の体に覆い被さる。足音が近くなっている。
「無様ですな。他の者に救いを求めようなど」
頭上から、声が降る。
「仮にも我らが主です。一思いに殺してあげましょう」

首筋に灼熱。真白の視界に、銀色。その銀色にしがみつく。
元親、すまぬな。
我といなければ、貴様は死なずにすんだのだな。
言葉は出ない。代わりに血が吐き出される。
重くなる瞼に逆らわず、元就はそっと深淵に意識を沈めた。





(もし生まれ変われるなら)
(もしまた会えたなら)
(共に生きられる世界が良い)