「憑物神を封印するには、強い意思を持たなければいけません」
光秀はそう切り出した。
「人に憑き、血に憑き、家に憑く存在である狗神を封ずるには相当の覚悟が必要です」
「それはどういう意味?」
慶次が問い、光秀が答える。
「蘭丸の心、血、体を以って狗神を封じ込めます」
そして、と光秀は続ける。
「恐らくは、蘭丸は狗神と同等の妖怪になると思います」
覚悟はしていたが、やはりその言葉は蘭丸を打ちのめした。
だが、蘭丸はぐっと歯を噛み締めたまま、光秀を見返す。そんな蘭丸を見た光秀は、柔らかく微笑んだ。



「朔の晩に儀式を行います」
「…それが妥当だろうね」
「…その方が良いよな」
光秀は言い切る。佐助や慶次も頷いて答えた。幸村もその通りだ、という顔をしている。蘭丸だけが置いてきぼりだ。
「なんで、わざわざ朔の晩を待つんだ?」
蘭丸が理解出来ないままに、話が進みそうになるのを止める。問い掛けには光秀が答えた。
「狗神を封ずるには、"陰"の力が強い方が良いのです。
…ですが、この地は"陽"の力が濃い。なので"陰"の力が強い、朔の晩を待つのです。

…陰陽については、今度詳しく説明しましょう」
と言って光秀は口を閉ざした。沈黙が部屋を包む。
そんな緊張感に満ちた部屋に。
ぐぅ。
そんな音が響いた。
思わず、発生源を残る4人の目が捕らえる。
そこには、腹を抱えた幸村。
「…難しい話は腹が空くでござる。佐助、何か作れ」
「了解しましたよ、旦那」
笑いながら、佐助が出ていく。だが、彼は部屋を出る直前に振り返って言う。
「一応、全員分作るね。皆お腹空いてるでしょ?」
言われて、蘭丸は自らの空腹感に気付いた。
そういえば、もう深夜だ。



陰陽