蘭丸は蛇を前にして、口を開けていた。
(幸村様みたいな人が来るんだと思ってた…)
しかし、どう見ても蛇。しかも大蛇ではなく、普通の小さな蛇だ。


白蛇はようやく盆から尾を取り出して、佐助に話し掛ける。
「この度はお招き有難うございます。して彼の方は何処に?」
佐助はその蛇とは目を合わせようとしない。あ、口がへの字になってる。への字の口が開く。
「…旦那、破って良いよ」
「そうか。ならば」
蘭丸の横の幸村が、手を目の高さに持ってくる。その指が、虚空を撫でた。
ギヤマンの砕けるような音が響く。蘭丸は自分達を囲っていた結界が壊れた事を知る。
幸村が一歩前に出る。蛇が幸村に目を向ける。
「久々ですねぇ、火神殿。お招きいただき感謝しております」
「…相変わらずのようで何よりでござるよ」
幸村が笑っているのが、背後の蘭丸からも分かった。蛇も笑っている。
「そちらも、のようですね。結界をぶち壊すなど、相変わらず凄い事を」
「大した事ではありませぬよ」
「大した事です」
呆れるような声で蛇。そのままにゅるにゅると寄ってくる。
幸村の前まで来て蛇は立ち止まった。闇色の目が赤色の目と交錯する。先に目を逸らしたのは蛇の方だった。
「…して、呼び出した用件とはなんでしょうか」
「わかっておられよう」
闇色の瞳が蘭丸を見据える。蘭丸はしっかりと見返した。
「…成る程」
ふ、と蛇が笑った気がした。蛇が目をつぶる。一瞬蛇の周りに白い霧が溢れた。



霧がはれれば、そこに人影が一つ。上背は幸村よりも高いようだが、猫背のせいで同じ位に見えている。
腰まである白い髪が揺れる。
「…やはりこちらの方がしっくりしますね」
闇色の瞳が笑う。蘭丸は片足を下げた。
下げた足を思い切り踏み切る。
「光秀ぇ!!!」
蘭丸の跳び蹴りは、見事男の顔面をとらえた。



蛇行