「決まったか」
「はい」
蘭丸は決然とした表情で、目の前の彼を見返した。

「狗神は解放しません。俺が、人間に戻れなくても」
彼の傍らの佐助が驚いていたのが、蘭丸は印象に残った。



彼はふわりと笑って俺の言葉に応える。
「ならば、某達も協力致そう。佐助、狗神について教えてくれるか」
促された佐助は、一つ頷く。そして口を開いた。

「狗神は、恨みを持ちながら死に至った犬が化けるものです」
淀みなく佐助の言葉は続く。
「多くは呪術に因るもので、人に憑き、血に憑き、家に憑きます。
憑かれた人間は莫大な富や名声を得ることが出来ますが、果ては必ず狂い死にます。
時が経てば経つ程、呪いが強く顕著になっていきます。憑いた血統は憑物筋、特に狗神筋と呼ばれ、忌避される事が多いようですね。
…憑物筋には、蛇神筋や猿神筋なども含まれます」
「…ふむ」
佐助の言葉を聞き終えた彼が、頭を掻く。そのまま、こちらに目を向けてくる。
「蘭丸殿。専門家を今宵呼びます。それまで、のんびりとしていて下され」
蘭丸は頷く。しかし、その言葉を佐助が聞き咎めた。
「ちょっと旦那。専門家ってアイツの事? 俺様がアイツ苦手なの知ってるでしょ…」
「とは言え、俺の知り合いで一番憑物筋に詳しいのは、あの方だからな。…それに、対処もあの方なら詳しいであろう」
「確かにそうだけど…」
「蘭丸殿、大丈夫でござるよ。来られる御仁は少々変わってはおられるが、素晴らしい方でござる」
安心して下され、と彼は嬉しそうに笑う。
蘭丸は少し不安を覚えたまま、頷いた。



決定