「目、開けていいよ」
慶次の声を聞いて、目を開けると別世界だった。
夜闇に包まれていた鬱蒼とした森が、約やかな屋敷に変わっている。小さな社の隣には大きな木があり、その木の周りにはしめ繩が張られている。夜にも関わらず、太陽の匂いに溢れていた。




「ちょっと待っててな、すぐに来るから」
笑う慶次に尋ねるよりも早く、足音が聞こえてきた。がらり、と玄関と思われる扉から茶色が覗く。
「や。佐助、久しぶり」
快活に笑う慶次に対して、佐助と呼ばれた男は眉間にしわを寄せていた。
「…慶次かよ。天狗が来たからてっきり小太郎かと思った」
そう呟いて、佐助とやらはこちらに目を向けてくる。
「アンタ、人間だよね。一応」
碧の目に射貫かれた。体が硬直する。全てを見通されると錯覚した。
「…はあ、こりゃあ俺様も対処出来ないな。旦那に頼むしかないね」
ふ、と佐助が息をもらした。彼の視線が逸れて、体の硬直が解ける。そして、佐助は屋敷の奥に目を向ける。その目の先の闇に火の粉が舞った。
「良いよ。アンタを此処へ招こう」
ぼう、と屋敷に灯が燈った。




玄関で足の汚れを洗い落とした後、佐助に先導されて、屋敷の中を歩く。隣には慶次。
簡素ではあるものの、あちこちに飾られた燭台から光が放たれている為か、地味という印象は受けない。赤々とした火に、ほう、と息をもらしながら進む。
佐助が立ち止まる。戸が開く。
「入って」
佐助に促されて部屋に入る。下座に敷かれた座布団に座った。隣にはやはり慶次が座る。
佐助は上座に置かれた座布団のよこに座っている。誰かの横に控えているようだ、と思った。
「…来た」
慶次が呟く。
目の前の座布団の上に火が舞った。


邂逅