椿が、散った。 ぽとんと花を落とすそれを他の人は不吉だと嫌ったけど、俺は不思議と嫌えなかった。 遠いあの人を思い出すから。 あの人を思い出せるから。 あの人は、炎だった。一瞬の閃熱を解き放って消えた、焔。 まるで 華のように。 ひゅうっと喉が鳴った。息も絶え絶えで、血まみれのその姿。 死が近い。その事を感じさせるのは、経験か直感か。 「旦…那…!!?」 「…佐助か。どうやら…お前は無事だったようだな…」 「馬鹿っしゃべんな!!」 慌てて駆け寄り、地面に仰向けに倒れていた旦那の上体を起こす。傷痕を確認しようと目を向ければ凄惨な状態だった。胸元に一文字、左の脚の腱は切られていて、肩に空いた虚からは血が止まらない。 「…もう無理だ。幾百も屠った身の、俺にはわかる。もう、俺は、生きられぬ」 「馬鹿かっ!!あんたは俺の主だろ!?真田幸村がこんな所で死ぬはず……!!」 「佐助」主の声に佐助は荒げた声をおさめた。代わりに涙混じりの声を漏らす。 「旦那が…死ぬなんて…!!」 「致し方の無き、こと。これが戦国の世の常であろう…。ならば…俺もそれに殉ずるのみ…」 「………っ!!」 嗚呼、旦那の躯が冷たくなっていく。死が近付いている。何故俺は旦那の傍にいなかった。そうすれば、旦那は死んでいなかっただろうに。 「嗚呼、佐助。俺は幸せだ」 でも、旦那は俺の心と裏腹に、笑う。 「今、俺はお前に見取られて、死ねる」 余りにも嬉しそうに笑うから、俺は顔を歪める。 ぽとん、と旦那の頬に涙が落ちる。 「…佐助、泣いておるのか」 「あんたが、笑う、から」 言えば、ふふ、と笑われる。 「なあ、佐助。自惚れても良いか。俺がお前に愛されていた、と」 「……自惚れじゃないよ。俺様はあんたの事が大好きだよ」 過去形の質問に現在形で答えれば、再び旦那は笑った。 「涙を拭け、佐助。お前は笑っていた方が良い」 「……無理だよ…」 笑えないよ。どうして、あんたは笑えるのさ。 「ああ見ろ、佐助。雪だ」 群青の空から、細雪。冷たいそれは死を連想させて、まだ少しだけ残っている温もりを抱きしめた。 「…佐助」 ああ、もう駄目だ。旦那はこの世に別れを告げるんだ。それが分かったから、涙を拭いて俺は笑う。せめて、旦那の最期の命令を叶えるため。 「また、会おうぞ」 嗚呼、貴方はこんな時も未来に希望を持つのですか。 ある戦を最後に、ある武将とその忍の姿が消えた。 散華の現 (それは、闇) ----- Mocha@様リクエストの「千紫万紅/重音テト」でした。 小太郎か佐助、との事だったので、佐助にさせていただきましたが……こんな感じでよろしかったでしょうか?感想などあればお願いします。 Mocha@様のみお持ち帰り可です。 蛇足文はプラウザバックの後、「万」の文字からお入り下さい。こちらもMocha@様のみお持ち帰り可です。 Mocha@様、リクエストありがとうございました。 |