空を見上げて、佐助は呟いた。
「ああ、降りそうだね」
傍らの幸村も、その大きな瞳を空に向ける。
空は鉛色に染まり、太陽の姿は雲の向こうに隠れている。
大気はほんのりと湿っていて、泥の匂いを纏っていた。
「某、傘を持っておらぬぞ」
「俺様もだね。屋敷まで結構距離あるけど、どうする?」
「いざという時には、何処かで雨宿りをさせて頂こう」
「まあ、この辺りには店が多いからね」
ふと前方を見れば、燕が地面近くを飛んでいた。




ぽつん。
そんな音が鳴って、アスファルトに黒い染みが落ちた。
瞬く間に、辺りに似たような染みが広がる。
「…降り出した」
「ちょうど喫茶店あるから、入ろっか」
「そうでござるな」
近くにあった喫茶店に入った瞬間、雨音はざあざあとしたものに変化した。
「ありゃあ、これじゃしばらく帰れないね」
「まぁ、今日はゆっくりと帰るとしようぞ」
学生鞄から取り出したタオルで主の頭を包めば、くぐもった声が聞こえる。
次いで小さめのタオルを出して自分の髪を撫でる。
「いらっしゃいませ。お二人様でよろしいですか?」
「はい」
店員の明るい声に答える。
前が見えない(タオルを被っているため)幸村の腕を引いて、空いている席につく。
「何か頼もうか。雨宿りだけだと気が引けるし」
「団子が食べたい」
「喫茶店だよ?あるはずないでしょうが」
なら甘い物、とタオルを被ったまま主は言ってくる。
はあと溜息を一つついて、佐助はメニューに手を伸ばした。




しばらくして、注文した物がきた。
佐助の前に紅茶。
幸村の前にオレンジジュースとスーパーデラックスチョコレートパフェ(ものすごくでかい。どのくらいかと言うと、めちゃくちゃでかい)。
「頂くでござる!!!」
スプーンを手にして、幸村は目の前の敵に挑みかかる。
まあ、勝利は確実なのだが。
「喉に詰まらせないでね」
一応釘を刺してから、佐助は携帯を開いた。
慣れた手つきで、検索エンジンを起動させる。
欲しかった情報はすぐに見付かった。
「天気予報によると、降ったり止んだりを繰り返すってさ」
「むぅ。どこかで傘を買わねばならぬのか」
「だけど、ここからなら屋敷に帰る方が近いよね」
そう確認すると、主は再度唸り声をあげた。
そのまま暫く考え込む。「…明日は学校は休みだったな?」
「そうだけど?」主の言葉に嫌な予感を覚えた。
「ならば、いざとなれば濡れても良いだろう」
嫌な予感的中。
「という事で帰るぞ。佐助」
「まだ俺様了承してないよ!?」
「関係ない」
見れば、スーパーデラックスチョコレートパフェは跡形もなくなっている。
「出るぞ」
「ああもう。分かりましたよ」
濡れた制服を乾かすのは、誰だと思っているのだろう。
どうか屋敷につくまで、降り出しませんように。
そう思いながら、佐助は会計の為に財布を手にした。



外は曇天。
雨は止んでいた。





(水溜まりには入らないでよ!!)




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暗花様リクエストの
「真田主従×曇天/DOES」でした。
長らくお待たせした挙げ句、こんなのになっちゃって、すいません。
もうちょっと、長かったはずなのですが…。削り過ぎたか。
暗花様のみお持ち帰り可です。

暗花様、リクエストありがとうございました。