緑間がふと弱音を吐いたことがある。
「三原色を知っているか」
「赤青、黄色」
あやふやながらも答えれば、続きを促すように
「もう一つの三原色は」
と言われた。
「え、二つもあんの」
「さっきのは絵の具の三原色なのだよ。光の三原色がある」
美術は守備範囲外だ。しらねえよ、そんなの。
「馬鹿め」
は、と緑間は鼻で笑った。
「赤、緑、青だな」
「知らねえよ、そんなの」
「馬鹿め」
二回目だ。良い気はしない。
「んで、その三原色がどうしたの」
「別に、ただの思いつきだ」
「ふうん」
緑間が滅多に思いつきを口にしない事を知りながら、高尾は聞き流した。
本当に知る必要のある言葉なら緑間は説明するだろうし、説明されないのならば、緑間の言葉は高尚過ぎてきっと高尾には理解できないのだ。





「三原色を覚えているか」
インターハイ準決勝を前にして緑間が問うた。高尾は頷く。
「絵の具は赤青黄。光は赤青緑だろ」
「ああ」
言葉が途切れる。
あれはただの思いつきではなかったのか、と高尾は心中で呟く。
「赤は」
緑間が言葉を紡いだ。
「赤は光でも絵の具でも三原色にいるのだよ」
やはり高尾には緑間の言葉は理解できない。だから聞き流す。
「緑などでは、飲み込まれてしまう」
青だって三原色の二角を押さえているじゃないか。言いかけて口を噤んだ。緑と青は混ざっても別の色にはならない。それに加えて、緑と青は同類で。大体、緑間は青を怖れていない。
赤が混じったら、黒になる。
「俺の光では、あいつに決して届かないのか」
「真ちゃん」
緑間の言葉を遮る。硝子越しの緑の瞳に、自分の鳶色の目を向けた。
「赤緑色盲って知ってる」
意味のない禽の囀りでも聞いてもらおうか。





色覚に関わる細胞は性染色体上に存在するという性質から、色盲は女性よりも男性に非常に多く現れる。
それでも全色盲はそこまで多いわけではない。が、二色盲、ことさらに赤緑色盲にはかなりの人数が該当する。色弱も含めるならば、男性の5%あまりの人数だ。
赤緑色盲とは、緑と赤が同色に見えることを指す。もちろん明確に彩度や明度が違えばそのようなことはないが、深紅と深緑ならば。
「俺にはね、赤と緑なんておんなじ色にしか見えないの」
深ければ深いほど。
「だからね真ちゃん」
赤が緑に勝っているなんて、緑が赤に劣っているなんて、思い詰めることのないように。
「俺にとっては、同じ色なんだぜ」





赤は人間の本質、起源に関わる色である。
破壊と発展の象徴である火。
稀に毒はあるが美味い果実。
一日の終わりを告げる夕日。
そして、生命を表す血の色。
「真ちゃん」
それでもやっぱり俺には、赤司も緑間も同じ色にしか見えないのだ。






は息を潜めて、の深くに沈んでいる

Tacitum vivit sub pectore vulnus.




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緑と赤といえばクリスマスってことで。無理矢理
本当は11月にあげるはずだったのは、誰にも内緒!!
※赤緑色盲については、ほとんど想像です。Wikiで調べたけどオラには難しすぎただ。
※あと高尾は鳥は色盲だと勘違っちゃってますが、人間より色鮮やかに見えてます。